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[イベントレポート]生えてきた芸術祭 みかのはら~と2023

山城地域|木津川市

 

「イベントレポート」では、京都府域で開催されている地域×文化芸術の取組を、京都府内の他の取組にもつながるよう、地域アートマネージャーをはじめとした文化芸術の専門人材がレポートします。

今回は、「アートってなんや??」をテーマに、地域振興につなげる取組として開催されている『生えてきた芸術祭 みかのはら~と 2023』の様子を、山城地域担当の西尾地域アートマネージャーがお届けします。

目次
『生えてきた芸術祭 みかのはら~と 2023』について
道中を楽しませる工夫
対話を重ねて創られる芸術祭
様々な人に開かれた『みかのはら~と』の様子
並べられた“瞳”と即興パフォーマンス
表現を深める子どもたち
様々な立場の出展者
「アートってなんや??」の解
イベント概要

記:西尾晶子(京都府地域アートマネージャー・山城地域担当)
編集:大賀由佳子(京都府文化芸術課・専門人材) 

 

『生えてきた芸術祭 みかのはら~と 2023』について

『生えてきた芸術祭 みかのはら~と』は、木津川市瓶原(みかのはら)地域の寺子屋やぎや一帯で、地域住民を主体とする実行委員会により企画・運営される地域芸術祭です。

古くは奈良時代に恭仁京(くにきょう)が置かれ繁栄した瓶原は、現在では急速に過疎化が進む地域の一つです。その瓶原で、地域の将来に危機感を募らせた住民が地域振興の活動を始め、その中で、「子どもたちに多様な出会いや経験をもたらせる、“おもしろくて、かっこいい田舎”を自分たちの手で作りたい」という想いが共有されました。そして、2022年、その想いを具現化する形で誕生したのが、『生えてきた芸術祭 みかのはら~と』(以下『みかのはら~と』)です。

『みかのはら~と』が掲げるテーマは、「アートってなんや??」。このテーマには、アートを通して多様な価値観を受け入れ、寛容で柔軟な地域芸術祭を目指す実行委員会のメンバーたちが、アートの知識や経験がないからこそ、「アートってなんや??」という問いに謙虚に向き合いたい、という想いが込められています。第1回に引き続き、「アートってなんや??」をテーマに開催された、第2回の『みかのはら~と』について、人を惹きつける工夫や独自の取組を交えてご紹介します。 

コーヒーやキッチンカー等の出店もあり、4日間の会期中、延べ700名以上が寺子屋やぎやを訪れました。

道中を楽しませる工夫

主会場である寺子屋やぎやは、瓶原盆地を見下ろす低い山の中腹にあり、恭仁宮跡に設けられた駐車場から徒歩で20分程かかります。その道のりに、案内板の代わりとして設置されたのが、個性豊かな板カカシです。出展作家らによって制作された板カカシは、集落のあちこちに設置され、来場者は様々な表情の板カカシと瓶原の風景を楽しみながら、会場へと足を運びました。

道案内の代わりとして設置された板カカシ。

出展作家やボランティアスタッフ、実行委員会メンバー、京都府立南山城支援学校の生徒たちによって様々な表情の板カカシが制作されました。

対話を重ねて創られる芸術祭

2022年に誕生した『みかのはら~と』は、実行委員会主催の勉強会を何度も行い、対話を重ねながら丁寧に創り上げられます。この勉強会では、一回ごとに「地域アートとは?」、「美とは?」、「ケアとは?」などのテーマを掘り下げ、参加者が意見を交換しながらじっくりと自分の考えを深めるそうです。「この時間を共有することで、『みかのはら~と』をより良いものに高めようという意思が実行委員会メンバーの中に育っていった」、と実行委員会代表で、寺子屋やぎやを運営する炭本さんが語ってくださいました。

会期前に寺子屋やぎやで行われた勉強会の様子

第2回の『みかのはら~と』では、この勉強会の話し合いから、鑑賞しに来た人に向けて、即興で表現する人を募ることが決まりました。これは、作る人(作家)、する人(実行委員会)、みる人(鑑賞者)の三者が、対等に創造性を発揮する芸術祭でありたい、という実行委員会の想いを形にしたものです。会場には募集看板が設置され、その想いに応えて、会場の雰囲気に触発された鑑賞者が自身の作品を持ち込んで展示する流れにつながり、『みかのはら~と』独自の取組が実現しました。

即興でパフォーマンスする人に、ワンコイン(500円)の出展料を支払ってもらう形で、鑑賞者にも表現する機会が設けられました。

様々な人に開かれた『みかのはら~と』の様子

『みかのはら~と』に作品を出展したのは、プロの作家をはじめ、子どもを含む地域住民など50組です。その中には、障がいを持つ人や、アートで地域活性を目指す地域外の団体なども含まれており、様々な立場の出展者による作品を鑑賞する機会が創られました。

 

並べられた“瞳”と即興パフォーマンス

板カカシの案内で山の中腹まで歩を進めると、畑に展示された色々な人の“瞳”に遭遇しました。眼下に広がる盆地に向けて並べられた“瞳”は、瓶原の空気と同じようにどれもとても澄んでいて、何を見つめ何を思うのだろう、と想像が掻き立てられました。

《記憶の眺め——EYEcon——》成田直子

この作品は、会期中、荒天の影響で一時的に撤去する必要に迫られましたが、その後、作品を再設置する作業が行われました。その際に、作業する人が作品を手に持つ姿が、やぎやで見つかった古い写真に映る花嫁行列や、別の場所に保存された写真に映る葬列と重なったことから、作家の成田直子さんは、各瞳の持ち主が作品を持って列を作る、という儀礼を想起させるパフォーマンスを行いました。

19日に急遽行われた、成田直子さんと各瞳の持ち主によるパフォーマンスの様子

表現を深める子どもたち

作家として作品を出展した地域の子どもたちは、好きなものや興味があるものを制作した第1回を経て、第2回でも丁寧に自分自身の興味や関心と向き合い、それぞれの表現手法を深めました。

辻井市太朗さんが、図鑑で観察しながら作成した立体切り絵は、画用紙とハサミと糊だけで昆虫のディテールを見事に再現したものです。展示をじっと見つめていると、色とりどりのリアルな昆虫たちが楽しそうに壁をよじ登っているように感じられ、森の奥でひっそりと暮らす虫たちの世界に迷い込んだようでした。

《昆虫》辻井市太朗

「折り紙が好き」という気持ちから、「大きな紙を折り紙にして、一人で折ってみたい」という挑戦心を募らせたU-ranさんは、3メートル四方の和紙を使い、竜の折り紙作品を展示しました。この作品は、第1回で制作した別の折り紙作品を展示後に解体し、洗って乾かし、同じ和紙を再利用して制作したものです。「折りたいから折る」、「和紙が洗えるなら、再利用して使う」、「飾れる場所があるから飾る」というシンプルな動機により、力強い作品が生み出されました。

《re:dragon 時空神》U-ran

様々な立場の出展者

障がいのある人と共に多彩なアートプロジェクトを行う「たんぽぽの家」(奈良市)からは、舟木花さんが出展しました。色紙を丸く切り抜くことが大好きな舟木さんのインスタレーション作品は、自身が切り貯めた大量の丸い紙で、床から天井まで部屋の至るところを彩ったものです。他者を意識することなく閃きのままに制作されたカラフルな空間には、表現する喜びが溢れ出ているようでした。

《まる》舟木花

この展示では、舟木さんが切り抜いた丸い紙を来場者も自由に貼れるようになっており、丸い紙を自由に貼り足す来場者の姿も見られました。

 

舞鶴市にある文化交流施設いさざ会館は、舞鶴市を拠点に活動するアーティストたちの作品をぎゅっと凝縮する形で紹介しました。いさざ会館の運営を担う浦岡雄介さんは、昨年の京都府地域プログラムの研修イベントで出会った寺子屋やぎやの炭本さん夫妻から『みかのはら~と』の話を聞き、そのコンセプトやそこに集まる人たちの熱気に感銘を受けたことで、『みかのはら~と』への参加を決めたそうです。

いさざ会館が推す舞鶴のアート作品出展ブース

いさざ会館の活動の一つに、「スポットの当たらないものにスポットを当てる」というものがあるそうです。その活動を通して、身近な表現活動を評価する新しい視点を鑑賞者にもたらし、それによって、鑑賞者の日常を豊かにすることにつながっていく、と浦岡さんは考えています。いさざ会館による舞鶴のアーティストたちの作品展示は、舞鶴から遠く離れた瓶原の鑑賞者たちにも、日常に埋もれた新たな気づきの機会を届けていました。

上林比東三さんによる流木アート(手前)や、丹後鉄郎さんによる車両のペーパークラフト作品などが展示されました。

「アートってなんや??」の解

『みかのはら~と』の魅力の一つは、アートの知識や経験をもたない人たちが中心となって、地域芸術祭を企画・運営していることです。アートに関しては素人と自認するからこそ、「アートってなんや??」という素朴な問いに率直に向き合い、作家や鑑賞者など立場を超えて、誰もが参加しやすい地域芸術祭を創り上げています。

そんな『みかのはら~と』の原動力とも言える実行委員会のメンバーたちは、第2回を終えて、「アートってなんや??」の解に近づいたのでしょうか。代表の炭本さんに伺うと、「近づいているかはわからないが、みんなが「アートってなんや??」の問いに対して、素直に考えるマインドを手にしている気がする」と教えてくださいました。アートが特殊で異質なものだった第1回を経て、第2回ではメンバーそれぞれが、アートに対して身構えるのではなく、自分たちの日常の中にもあるもの、というところまでアートが近い存在になったそうです。

これから『みかのはら~と』を続けていく中で、実行委員会のメンバーたちは、アートの素人ではなくなっていきます。同時に、「アートってなんや??」という問いに対する、それぞれの解も少しずつ明確になっていくのではないでしょうか。そうなった時に、アートの知識や経験をもたなかったメンバーたちだからこそ丁寧に創り上げられた『みかのはら~と』が、これから、どのような地域芸術祭に発展していくのかを想像するとワクワクします。アートに対する新鮮な視点を大切に、ここでしかみられない、オリジナルの地域芸術祭が、“おもしろくて、かっこいい田舎・瓶原”で続いていくことを願っています。

 

記:西尾晶子(京都府地域アートマネージャー・山城地域担当)
編集:大賀由佳子(京都府文化芸術課・専門人材) 

『生えてきた芸術祭 みかのはら~と2023』概要

会期 | 2023年11月16日(木)~19日(日)
会場 | 京都府木津川市 寺子屋やぎや 他
主催 | みかのはら~と実行委員会
助成 | 京都府地域交響プロジェクト交付金
詳細 | https://mikanohara.net/