山城地域|木津川市
「イベントレポート」では、京都府域で開催されている地域×文化芸術の取組を、京都府内の他の取組にもつながるよう、地域アートマネージャーをはじめとした文化芸術の専門人材がレポートします。
今回は、「みらいとあそぼ」をテーマに、2023年11月に開催された『木津川アート2023』の様子を、山城地域担当の西尾地域アートマネージャーがお届けします。
▼目次
●木津川アートについて
●新たな取組の舞台となった梅美台・州見台地域
・「テクノロジー」と「サイエンス」
・「教育×アート」の取組
●木津川アートのスピリットを感じる市坂地域
●木津川アート2023によせて
●イベント概要
木津川アートについて
京都府木津川市を舞台に、2年に1度行われている木津川アート。3つの自治体が合併したことをきっかけに、それぞれの旧町民の交流を促し、行政と住民が共に市の魅力を発見する“まちづくり事業”として、2010年にスタートしました。
第8回となる木津川アート2023では、これまでに築いた木津川アートのスタイルをベースに、先端企業や研究施設が点在する学研都市としての側面にも光を当て、「テクノロジー」や「サイエンス」また「教育」といった未来を連想させる要素が数多く採り入れられました。
新たな取組の舞台となった梅美台・州見台地域
「テクノロジー」と「サイエンス」
木津川市東部の梅美台・州見台地域は、ファミリー世帯が中心に居住する宅地であると同時に、「テクノロジー」や「サイエンス」を扱う企業や研究施設が点在する場所でもあります。
そのような地域の特色を生かし、企業や研究施設とコラボレートした作品が展示されたり、地域の子どもたちが作品制作や作家によるワークショップに参加するなど、木津川アートとしては新たな取組が行われました。
金属加工を主軸とする抱月工業株式会社の芝生広場には、「建物や電車が人間の世界を見ていたらどう思うのだろう?」という問いを立てた作家の作品が展示されました。作家のコンセプトからスタートした作品の制作プロジェクトには、同社も早い段階から参加し、材料や設計について作家と協議したり、骨組みを作る、セメント・漆喰を塗るなどの作業を作家と社員が一緒に行うなど、作家と企業が交流を深めながら制作が進められました。
音や光を研究テーマとする関西光量子科学研究所では、波の形を立体構成した作品が屋外に展示されました。単調な形の連続によって生み出された凹凸のラインが目を引き、車に乗っている人たちが信号待ちの間に鑑賞する姿も見られました。
「教育×アート」の取組
木津川アート2023では、地域の学校等と連携し、未来への種まきとなる「教育×アート」の取組も新たに行われました。具体的には、梅美台・州見台地域の小中学校に作家が出向いてワークショップを行ったほか、子どもたちが作家と一緒に作品を制作するという機会も創られました。
授業に現役の作家が登場し、子どもたちが、自由に作る楽しさを発見したり、アート作品に直に触れる経験を持てたことで、子どもたちとアートの距離がぐっと縮まったのだそうです。そうした出会いがきっかけとなり、会期中は、多くの子どもたちが鑑賞者として木津川アートの展示を観て回る姿も見られました。このような取組により、子どもたちの木津川アートへの理解が深まり、将来のアート鑑賞者を育てることにもつながっています。
「ありがとう」というテーマを用いてコミュニケーションのあり方を形にする、作家の服部正志さんとの取組では、服部さんが市内の小学校を訪れました。服部さんによって、アートの楽しみ方が子どもたちに伝授された後、「ありがとう」という気持ちを表現するために、《ありがとうのきょじん》をロープで描くというワークが行われました。その後、近くの公園内にある州見山に場所を変え、子どもたちだけでなく地域住民も加わり、《ありがとうのきょじん》の最終形となる《ありがとう州見山の巨人》を仕上げました。
作家の池口友理さんは、パーツとパーツの“ズレ”が象徴する不完全さをポジティブに捉える一連の作品の展示とワークショップを行いました。
展示では、一度描かれた絵を10センチ角のパーツに切り分け、そのパーツに描かれた原画を別の白紙のパーツに模写し、模写した新しいパーツを最初の絵になるようにもう一度つなぎ合わせます。そうすると、完璧には模写できないため、絵のつなぎ目がちょっとずつズレてしまうのですが、そのズレで構成された作品は何とも言えない味わいを醸し出していました。
ワークショップは、会期前や会期中、木津川市内の小中学校や商業施設で行われ、切り分けられたパーツを参加者がそれぞれ模写し、延べ600人以上のパーツが合わさった作品を完成させました。
木津川アートのスピリットを感じる市坂地域
市坂地域は、京都と奈良を結ぶ交通ルートとして、古くから人や物の往来があった奈良街道沿いにあり、車で走るとすぐに通り過ぎてしまうような小さな集落です。そんな小さな集落では、古い家屋や神社仏閣で展示が行われ、地域の歴史を感じさせる街並みや集落の中で現代アートを鑑賞できるという、木津川アートがこれまでに培ったスタイルの展示も愉しむことができました。
美しく整えられた十輪寺の枯山水庭園に展示された陶芸作品は、その自然な配置により、一つ一つの作品と庭園が呼応し、いつまでもここに居たくなるような柔らかい空気が流れていました。
大正時代に建てられた旧ボタン工場は、ここで働いていた人たちの熱気が微かに感じられるような、イマジネーションを掻き立てられる場所です。「この場所に出会ったのは偶然」と木津川アート・ディレクターの加藤さんはおっしゃっていましたが、こういった物語のある場所をアート作品の展示会場に変え、場を生かした作品を展示できるのは木津川アートの大きな強みの一つです。
工場内では、三人の作家の作品が展示されました。溶かした磁石が自然現象のように変化していく作品(児玉幸子)や、ろうけつ染めのテキスタイルで構成された無数の目(山下茜里)、機械も人もいないからっぽの工場で飛翔する小さなLEDライト(笹岡敬)など、約20年前まで紡がれていた歴史の気配を感じながら、旧ボタン工場という場を生かした展示が来場者を魅了しました。
木津川アート2023によせて
木津川アート2023のテーマは「みらいとあそぼ」。企業や研究施設を巻き込んでアートの展示を行うことで、新しい技術や製品が開発される未来につながるかもしれない。子どもたちが街の中でアートを観てその精神性を感じることで、彼らの未来に何かが生まれるかもしれない。そんな想いを込めたテーマが存分に表現され、これまでの木津川アートファンに加え、木津川市で働く人たちや地域の子どもたちの中にも、街の魅力を知る楽しみが広がりました。
木津川アートの良いところは、作家、事務局、行政、住民、“みんな”が一つになって木津川アートをつくろうとするところです。今回の新たな試みを通じて木津川アートに触れた人たちの中からも、この“みんな”に加わる人がきっと出てくることと思います。そうやって、じわじわと関係する人を増やし、“みんな”の中に木津川アート愛を育むことで、来場者をさらに魅了する木津川アートが続いていくことを期待しています。
記:西尾晶子(京都府地域アートマネージャー・山城地域担当)
編集:大賀由佳子(京都府文化芸術課・専門人材)
『木津川アート2023-みらいとあそぼ』概要
会期 | 2023年11月3日(金・祝)~19日(日)
会場 | 京都府木津川市 市坂・梅美台・州見台地域
主催 | 木津川アートプロジェクト
共催 | 木津川市
運営 | 木津川アートプロジェクト事務局
詳細 | https://kizugawa-art.com/