READING KYOTOHOOPを深める

[事業レポート]パシャパシャ丹後|展示・プログラム講評

丹後地域|京丹後市・宮津市・与謝野町・伊根町

 

写真表現を通じて丹後地域を見つめた今年度のKaico-参加型アートプロジェクト「パシャパシャ丹後」では、どのように「まち」と「ヒトとヒト」の交流が起きたのか。ヒトとヒトとの交流を生むコワーキングスペース「クロスワークセンターMIYAZU」(宮津市)で、コンテンツディレクターを務める筒井章太さんに取材していただきました。

今回は、11月1日~12月3日にかけて実施した展覧会『パシャパシャ丹後-はた織りと共にある暮らしを観る』の様子と、プログラム講評を筒井章太さんに執筆いただきました。

 

 

 

展覧会『パシャパシャ丹後-はた織りと共にある暮らしを観る』

秋の深まりを感じる時期に、丹後地域各所で開催された展覧会『パシャパシャ丹後-はた織りと共にある暮らしを観る』。 丹後地域に根付く織物文化や風景をテーマに、参加者や写真家の吉田亮人氏が撮影した写真作品が丹後地域各所に展示され、丹後地域の文化・自然・暮らしの豊かさを再発見する機会となった。本記事では、主な展示会場や展示の特徴について触れながら、その魅力や価値をお伝えする。

 

 

展覧会のメイン会場|旧尾藤家住宅

 ワークショップ参加者による作品展示

国の重要文化財である旧尾藤家住宅は、ちりめん産業で栄えた丹後地域の象徴とも言える場所。この場所に展示された作品は、まさに「はた織りと共にある暮らし」を体現していた。

会場に足を踏み入れると、まず目を引いたのは、ちりめん生地にカラープリントされた写真作品たち。丹後ちりめんを使った新たな商品を企画・製造している職人グループ「たてつなぎ」の技術の粋を集めてちりめんに印刷された作品は、糸巻きのような展示スタンドに設置され、まるで会場全体が一つの織物作品かのよう。丹後ちりめん特有の「シボ」と呼ばれる生地全体の細かな凹凸が光を乱反射することで、印刷された写真に立体感や深みが生まれ、光の当たり具合や鑑賞する角度によって見え方が変わる。ちりめんのもつ繊細さと参加者が撮影した写真の魅力がかけ合わさり、新たな鑑賞体験を生み出す展示方法となっていた。

鑑賞者からは、「まるでプロが撮ったよう」「写真の展示方法が斬新で、空間全体がアートだった」「子どもたちの写真が独特の視点で、こちらの感性も刺激された」といった感想が述べられ、地域文化と芸術が見事に調和した展示となっていた。

また、会場にはワークショップ参加者や関係者も訪れており、「自分が撮った作品がこんな素敵に展示されていて嬉しい」「普段は意識してなかった丹後の美しさに気づいた」などの声が多く寄せられ、参加者と鑑賞者が共に作品を楽しむ姿が印象的だった。

旧尾藤家住宅での展示風景(撮影:安田哲馬)

ちりめん生地の凸凹のシボが作品写真に深みを出している(撮影:安田哲馬)

 

写真家・吉田亮人氏による展示『Weave Story』

写真家・吉田氏の作品は、丹後の織物職人の人生を映し出したものだった。作品の中には取材で得た職人たちの“言葉”が吉田氏本人の字で織り込まれており、職人の生き様や、はた織りと共に過ごした人生が垣間見れる内容だった。鑑賞者たちが各々しゃがんだり、光をあてながらその“言葉”をじっくり読み込んでいる様子が印象的だった。

鑑賞者からは、「まるで一つの小説を読んでいるような気持ちになった」「それぞれの職人さんたちの生き様が写真と文章から滲み出ていて自然と涙が出てきた」「写真という表現の奥深さと可能性を感じた」といった感想が相次いだ。

 

 

地域全体を巻き込む展示の広がり

この展覧会の特徴は、メイン会場の旧尾藤家住宅にとどまらず、丹後地域全体を展示空間として活用している点である。

 

フォトスポット|京都丹後鉄道天橋立駅(モニター展示)

天橋立駅には、写真作品が観光客を出迎える形で展示され、旅の始まりを彩るフォトスポットとなった。ここでは、観光客が作品を背景に記念撮影を楽しみながら、普段の観光では中々見ることができない丹後の暮らしや営みにスポットを当てた写真を眺め、楽しんでいた。

天橋立駅に設置されたフォトスポット

 

動く展示|丹海路線バス車両内

丹後地域を走るバス車両内にも写真作品が展示され、移動中の車内をギャラリーに変える試みが行われた。路線バスが地域の文化と日常をつなぐ役割を果たし、地域住民と観光客が同じ空間で写真を楽しむ光景が見られた。

丹海バスの車両内に作品を展示(撮影:安田哲馬)

「パシャパシャ丹後」のロゴで展示車両が一目でわかる(撮影:安田哲馬)

 

その他モニター会場|丹後地域各地の公共施設

レクチャー会場や写真ワークショップの撮影場所であった、京丹後市の浅茂川区民会館や、伊根町の伊根浦発信館おちゃやのかか(民俗資料館)に加え、ら・ぽーと(京丹後市網野庁舎)、伊根町観光案内所といった丹後地域各地の公共施設にて、参加者が撮影した写真やワークショップの様子を映したスライドショーが上映された。地元住民の方たちが日常的に出入りしたり、観光客の方が往来する場所が展示会場となっており、展示を目的に訪れていない人でも、自然と『パシャパシャ丹後』の取組が目に入ることが特徴的だった。観光客に丹後地域の暮らしの魅力を届けたり、地域の方に、自分たちの住むまちの魅力を再発見するきっかけを提供していた。

モニター会場の一つ伊根町観光案内所での展示風景(撮影:安田哲馬)

 

 

丹後半島を巡るバス旅から見えたもの

展示会場を巡る旅の一環として、筆者自身も鑑賞モデルコースとして推奨された丹後半島一周コースのバス旅を体験した。この旅では、各展示会場や写真ワークショップの舞台となった場所を巡った。車窓から眺める丹後の景色はどの瞬間を切り取ってもどこも美しく、丹後地域が持つ雄大でありながら繊細な自然の造形美、そして人々の営みや暮らしの魅力を改めて感じた。
一方で観光地化しているエリアとそれ以外の偏りによって生じる課題も見えた。伊根の舟屋や天橋立ではオーバーツーリズムが問題となりつつある一方、10〜20分バスで移動するだけで観光客がほとんどいなくなり、路線バスも一部廃止となり、集落の存続が危ぶまれている。この二極化を是正することが丹後エリア全体の資源や伝統を維持していくために必要だと感じた。
このように、地域の点と点をつなぎ、「面」として捉え直す今回の展示の取り組みは、丹後地域全体を俯瞰し、魅力や課題を考えるきっかけの提供としても有意義なものだった。

筆者撮影(経ヶ岬展望台からの景色)

 

 

地域プログラム(丹後)『パシャパシャ丹後-はた織りと共にある暮らし』講評|参加型アートプロジェクトの価値

地域プログラム『パシャパシャ丹後-はた織りと共にある暮らし』は、地域住民、アーティスト、観光客といった多様な人々が関わりながら、丹後地域の歴史や文化を再発見し、それを写真を通じて表現・共有する場となった。
ワークショップでは、カメラを手にまちを歩くことで、参加者それぞれが「自分なりの丹後」を見つめ直す時間を持った。特に地元の中高生にとっては、何気なく過ごしてきた町の景色や文化を「被写体」として捉え直すことで、これまで意識していなかったまちの美しさや伝統に気づく契機となった。参加者の中には、「地元を退屈な場所だと思っていたが、実はこんなに魅力が詰まっていたことに驚いた」「観光地としてではなく、住んでいる町としての丹後の価値を知ることができた」といった感想を述べる者も多く、視点の変化が生じていた。
また、与謝の海支援学校の子どもたちにとっては、写真が自己表現の手段となり、普段は言葉で伝えにくい「好き」や「興味」、そして彼らの持っている個性や才能が写真を通じて可視化されていた。彼らの撮る写真には、大好きな友人の笑顔、校舎のディテール、空や植物など、個々の感性や、見ている世界が色濃く映し出されていた。

参加者作品

写真家の吉田氏は、写真ワークショップを通じて、参加者が「写真を撮る」という行為そのものを楽しむだけでなく、自分の目で世界を見つめ直し、感じたことを表現し、他者と共有するプロセスを深く味わっていたことに感銘を受けたという。
「パシャパシャ丹後」は、地域の風景を切り取ることを通じて、丹後の歴史や文化、暮らしに新たな光を当てるプロジェクトだった。そして、参加者たちはその光を、自らの視点で自由に捉え、表現し、共有することの面白さを体験した。それは、地域住民にとっては「自分の町を再発見する」機会となり、展示を鑑賞する観光客にとっては「住んでいる人々の視点を通じて丹後を知る」機会となった。また、カメラを持ち、共に歩き、話すことで、他者との距離が縮まる点も印象的だった。
本プロジェクトの根底には、「まちを歩くこと」「人と出会い、交流すること」「自分の目で世界を見つめること」への原点回帰がある。かつて織物産業が栄えた丹後の町並みは、歩くことを前提に作られていた。しかし、現代では車移動が主流になり、人々はまちの細部に目を向ける機会を失いつつある。このワークショップは、そんな風景の中でいったん立ち止まり、しゃがみこみ、時には寝そべって、じっくりまちと向き合う時間を提供した。そして、それが結果的に「自分自身の個性や在り方を見つめ直す」ことにもつながっていた。

カメラを持つことで、世界が変わる。見慣れた風景が新鮮に映り、日常が輝き出す。その体験こそが、このプロジェクトがもたらした最大の価値だったのではないか。これからも、参加型アートプロジェクトという手法を通じて、地域の魅力を発見し、表現し、共有する試みが続いていくことを願う。

参加者作品

 

トップに戻る

 

 

記事執筆・写真

筒井章太(Tsutsui Shota)

1995年生まれ。北海道滝川市出身。立命館大学文学部を卒業後、広告代理店に入社。中国支社を立ち上げ20社以上の日本企業の中国進出を支援する。2022年3月FoundingBaseへ入社し、現在は京都府宮津市の「クロスワークセンターMIYAZU」を中心とした関係人口創出事業に従事。昨年度の地域プログラム(丹後)の『参加型ワークショップ―Kaico』では、学ぶ編への登壇、およびトークイベントのファシリテーターを務める。

 

 

令和6年度京都府地域プログラム(丹後)
展覧会『パシャパシャ丹後-はた織りと共にある暮らしを観る』

 

会期|2024年11月1日(金)~12月3日(火)
観覧|無料・申込不要

会場|旧尾藤家住宅ほか7ヶ所

出品者数・作品数|95名・123点

出品者|写真ワークショップ『パシャパシャ丹後』参加者、京都府立与謝の海支援学校生徒
    吉田亮人(写真家)※旧尾藤家住宅展示会場のみ

撮影場所|網野の機屋の町並み、京都府立丹後郷土資料館、旧永島家住宅、ちりめん街道の町並み、伊根浦発信館おちゃやのかか(民俗資料館)、伊根の町並み、浅茂川区民会館、旧加悦町役場庁舎、京都府立与謝の海支援学校

 

登壇者のプロフィール等、プログラム全体の詳細は
▼こちら
https://kyotohoop.jp/program/tango2024/

 

 

トップに戻る

 

令和6年度京都府地域プログラム(丹後)
Kaico-参加型アートプロジェクト『パシャパシャ丹後-はた織りと共にある暮らし』事業レポート一覧

写真ワークショップ(網野の機屋の町並み-天橋立コース編)

写真ワークショップ(ちりめん街道-伊根の町並みコース編)

出張写真ワークショップ(与謝の海支援学校編)

トークイベント

●展示・プログラム講評

展示|吉田亮人『Weave Story』

関係者の声

トップに戻る

(記事執筆:筒井章太(クロスワークセンターMIYAZU・コンテンツディレクター))