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[事業レポート]パシャパシャ丹後|トークイベント「パシャパシャ丹後で覗いた丹後の魅力」

丹後地域|京丹後市・宮津市・与謝野町・伊根町

 

写真表現を通じて丹後地域を見つめた今年度のKaico―参加型アートプロジェクト「パシャパシャ丹後」では、どのように「まち」と「ヒトとヒト」の交流が起きたのか。ヒトとヒトとの交流を生むコワーキングスペース「クロスワークセンターMIYAZU」(宮津市)で、コンテンツディレクターを務める筒井章太さんに取材していただきました。

今回は、11月2日に実施したトークイベント『パシャパシャ丹後で覗いた丹後の魅力』の様子をお届けします。

 

 

令和6年度京都府地域プログラム(丹後)事業レポート
トークイベント『パシャパシャ丹後で覗いた丹後の魅力』

開催日|2024年11月2日(土)
時 間|14:00~15:00
会 場|旧尾藤家住宅内蔵(うちくら)会場(与謝野町字加悦1085)
登壇者|吉田亮人(写真家、写真ワークショップカメラレクチャー講師、本展出品写真家)
    小山元孝(福知山公立大学教授、写真ワークショップ織物レクチャー講師)
ファシリテーター|筒井章太
定 員|30名程度
参 加|無料・申込制

 

 

 

11月2日。日本遺産「丹後ちりめん回廊」の一角にある旧尾藤家住宅で、Kaico-参加型アートプロジェクト「パシャパシャ丹後―はた織りと共にある暮らし」の振り返りとしてトークイベント「パシャパシャ丹後で覗いた丹後の魅力」があいにくの大雨で気温も冷え込む中、内蔵(うちくら)の映写室にて開催された。

登壇者は、写真ワークショップで講師を務めた吉田亮人氏(写真家)、丹後の織物文化についてレクチャーを行った小山元孝氏(福知山公立大学教授)、そして司会・ファシリテーターを担当した筆者・筒井の3名である。

トークイベントでは、写真ワークショップの成果や印象的なエピソード、さらにそこから得られた学びについて対談形式で語られた。本記事では、その内容を紐解きながら、本プログラムが地域や参加者にもたらした意義を振り返る。

トークイベントの様子(撮影:安田哲馬)

 

 

写真表現とまち歩きを組みあわせたワークショップが見せた地域の魅力

冒頭では、ちりめん産業で栄えた丹後のまちがもともと「歩くこと」を前提に設計されていることが話題に上がった。かつての丹後は、機織り工場を中心に、店舗、食事処、旅館などが狭いエリアにぎっしりと集まり、徒歩圏内で生活が完結していた。

しかし、現代では車が移動方法の主流となり、住んでいる住民でも、一本の通りをじっくり歩いたり、日常生活の中でゆっくりとまちを歩いたりする機会が失われつつある。

本ワークショップは参加者の半数以上が地元住民であり、その中には中高生も含まれていた。彼らからは、「自分のまちは単なる田舎だと思っていたが、実は多くの宝物や歴史や文化が隠れている面白い町だと気づいた」という声が寄せられた。このように、地域に根差した魅力を再認識する機会となったことは大きな成果である、ということが口々に述べられた。

丹後半島の各地で行われたワークショップでは、参加者は自分の足で「歩いて」地域の魅力を再発見していった。(撮影:安田哲馬)

小山氏は「地元の人々が当たり前だと思っているものが、実は文化的にも歴史的にも非常に価値がある。カメラを通じてその視点を引き出せたのは大きな成果であり、私自身も丹後の町を歩くことで新たな発見が多数あった」と語った。

 

 

 

カメラが引き出す本能と創造性

次に、「参加者自身の変化」について議論が行われた。吉田氏は「一眼レフカメラという小さな四角い箱を持つという制約が、人々の感性を刺激し、参加者の視点を広げる道具になった」と述べた。

普段、目的地に向かうことを主目的とした移動が多い現代において、「過程を楽しむ」機会は少ない。しかし、私自身もこのワークショップに参加し、「面白いものを探して写真を撮る」という目的地のない体験をすることで、町そのものを面白がり、楽しめたと感じた。

特に参加した子どもたちの、本能のままに動き、地面に這いつくばるようにして写真を撮っていた様子が印象に残ったというトピックで対談は白熱。

参加者作品

吉田氏は「彼らの写真には、純粋でありのままの本能や興味、独創的な視点が込められていた」と感嘆し、アマチュアならではの自由な発想に刺激を受けたと語った。自分の本能や感覚を大事にし、面白がりセンサーを研ぎ澄ませて生きていくことは、写真だけでなく、人生を楽しむコツにも繋がるのかもしれない。子どもたちの姿からは、そんなことを示唆してもらったように思う。

参加者作品

 

 

芸術表現を通じたコミュニティの形成

ワークショップのもう一つの成果は、参加者同士の新たな繋がりが生まれたことである。ほとんどが初対面だった参加者たちも、終了時にはすっかり打ち解け、トークイベントにはワークショップで出会った友人とともに訪れる人もいた。

吉田氏は「写真を通じて他者の感性や価値観に触れることで、自然と親近感が生まれたのではないか」と指摘。続けて、「同じ道を歩いても撮る写真が全然違う。写真はその人の感性や価値観を如実に映し出す。異なる視点や、逆に自分と同じ共通項に触れることで、他者への理解や興味が深まり、新たな繋がりが生まれたのだろう」と分析した。

写真という表現手段が、参加者同士の交流を深める媒体として機能したことが分かる。芸術表現そのものが交流を起こす媒体となった事例は、昨年度に地域プログラムとして実施された、丹後の町にあるさまざまな「形」を裁縫して一つの作品として共同制作するワークショップ「Kaico-町を縫う」でも起きたことである。

令和5年度の地域プログラム(丹後)『Kaico-参加型アートプロジェクト』で行ったワークショップ「町を縫う」で制作された作品。展覧会『パシャパシャ丹後』の期間に、旧尾藤家住宅の横庭に展示する日を設けた。

 

 

職人の織りなす物語を遺す写真表現

後半では、吉田氏が本プログラムと並行して制作した写真作品について語られた。吉田氏は、丹後地域で長年機織りに従事する現役の織物職人3組に取材し、彼らの人生や仕事に基づいた作品を制作した。織物の仕事は、毎日同じ時間に起き、休みなく一日中、一年中機の前にいる。一見単調なルーティンワークに見えるが、その日々には職人たちの人生そのものが織り込まれている。産業の繁栄から衰退、喜びや困難、出会いと喪失など、仕事と人生が一体となり、山あり谷あり全てが織物のように積み重ねられている様子が印象的だったという。

展示 吉田亮人『Weave Story』より

吉田氏は「どんな小説よりも、職人たちが紡いできた人生そのものが味わい深い」と語り、取材した職人の印象に残った“言葉”を写真に忍ばせるなど、写真を通じてその魅力を表現した。

展示 吉田亮人『Weave Story』の展示風景

 

 

丹後の未来を紡ぐ

トークイベントの最後は、「私たちが歩いたこの丹後の町や、そこに住む人々の人生も織物のように多くの要素を織り込んで成り立っている」という話題で締めくくられた。丹後の町もまた、多くの歴史や文化を紡ぎながら今を生きている。産業の衰退、人口減少など様々な課題がある中で、この先の地域の未来をどう紡ぎ、織り込んでいくかは、今を生きる私たち次第である。

私は、地域の資源や魅力を再発見し、それを未来に繋げていく努力を続けることが、丹後の可能性を広げる鍵だと考える。「パシャパシャ丹後」は、地域内外の参加者が共に、地域の魅力を引き出し、参加者たちの感性やコミュニティを育む貴重な場となった。

芸術表現を通じ、コミュニティの交流を促進するこの取り組みがさらに多くの人々に影響を与え、丹後の未来を明るく照らす一歩となることを期待した。

旧尾藤家住宅の展示作品。丹後ちりめんに印刷する技術を用いて展示を行った。(撮影:安田哲馬)

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記事執筆・写真

筒井章太(Tsutsui Shota)

1995年生まれ。北海道滝川市出身。立命館大学文学部を卒業後、広告代理店に入社。中国支社を立ち上げ20社以上の日本企業の中国進出を支援する。2022年3月FoundingBaseへ入社し、現在は京都府宮津市の「クロスワークセンターMIYAZU」を中心とした関係人口創出事業に従事。昨年度の地域プログラム(丹後)の「参加型ワークショップ―Kaico」では、学ぶ編への登壇、およびトークイベントのファシリテーターを務める。

 

 

令和6年度京都府地域プログラム(丹後)
トークイベント『パシャパシャ丹後で覗いた丹後の魅力』

写真ワークショップでカメラレクチャー講師を担当し、本展に作品を出品する写真家・吉田亮人氏と、織物レクチャー講師を担当した福知山公立大学教授の小山元孝氏の二人がプログラムを振り返りながら、丹後地域の魅力や作品、芸術表現を通じたコミュニティ形成について語りました。

 

開催日|2024年11月2日(土)
時 間|14:00~15:00
会 場|旧尾藤家住宅横庭(雨天の場合は屋内)
    (与謝野町字加悦1085)
登壇者|
 吉田亮人(写真家、写真ワークショップカメラレクチャー講師、本展出品写真家)
 小山元孝(福知山公立大学教授、写真ワークショップ織物レクチャー講師)
定 員|30名程度
参 加|無料・要申込

登壇者のプロフィール等、プログラム全体の詳細は▼こちら
https://kyotohoop.jp/program/tango2024/

 

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令和6年度京都府地域プログラム(丹後)
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写真ワークショップ(網野の機屋の町並み-天橋立コース編)

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●トークイベント

展示・プログラム講評

展示|吉田亮人『Weave Story』

関係者の声

 

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(記事執筆:筒井章太(クロスワークセンターMIYAZU・コンテンツディレクター))