丹後地域|与謝野町・宮津市
写真表現を通じて丹後地域を見つめた今年度のKaico―参加型アートプロジェクト「パシャパシャ丹後」では、どのように「まち」と「ヒトとヒト」の交流が起きたのか。ヒトとヒトとの交流を生むコワーキングスペース「クロスワークセンターMIYAZU」(宮津市)で、コンテンツディレクターを務める筒井章太さんに取材していただきました。
今回は、9月17日と25日に京都府立与謝の海支援学校で行った、出張写真ワークショップの様子をお届けします。
令和6年度京都府地域プログラム(丹後)事業レポート
与謝の海支援学校での写真ワークショップ
真夏の暑さがほんの少しだけ和らいだ9月後半。
心身に障がいのある子どもたちが通う与謝の海支援学校(特別支援学校)の小中学部を対象にした写真ワークショップ「パシャパシャ丹後-はた織りと共にある暮らしを覗く」が2日に分けて行われた。どちらの日程も綺麗な青空と様々な形の雲が浮かぶ、好奇心をくすぐる天気の中での開催となった。
▼9月17日(1日目):校舎内でのレクチャー&撮影実習
1日目の前半では、丹後ちりめんやカメラ撮影に関する各種レクチャーが行われた。
まずは、手作り紙芝居の活動を行う森山道子さんによる、丹後ちりめん発祥の物語の紙芝居の上演。 子どもたちは、紙芝居に夢中になりながら、丹後ちりめんの始まりについて学んでいた。

その後は、臼井織物株式会社の臼井勇人氏による丹後ちりめん精練実験。丹後ちりめん最大の特徴である「シボ」がどのように精練されるのか実演された。

レクチャーの最後は、写真家の吉田亮人氏によるカメラの使い方講座。子どもたちのほとんどは、本格的な一眼レフのカメラに触れるのは初めて。カメラを渡されると、「やばいやばい!!」「かっこよすぎる!」と一同大興奮。
講師の吉田氏から、「思いっきり下から撮ったり、うーんと近づいてみたりしましょう」とアドバイスをもらうと素直に吸収し、「全然見え方が違う!!!」「すごい!」と最初からテンションMAXな状態で、校舎の中での撮影実習が始まった。

- 校舎の敷地内での撮影実習(撮影:安田哲馬)
今回は普段から学校生活を共にする仲間たちと一緒のワークショップ。与謝の海支援学校の撮影実習は、景色よりもまずは友だちや先生方の写真をとにかく撮る、というのが特徴的だった。
その写真に写る子どもたちの表情は、皆どことなく嬉しそう。興味関心を表現するのが得意な子も、苦手な子も、みんな友だちや先生が大好きなことが垣間見え、実は普段から仲間を思い合いながら過ごしていることが表れていた。
その後、学校の敷地内をカメラを持って散策。ドアップで校舎にある様々な模様だけを切り撮る子や、花と空をモチーフに撮る子まで、各々の興味がカメラを持つことで際立ち、それぞれの個性が発揮された撮影実習となった。

▼9月25日(2日目):丹後郷土資料館での写真ワークショップ
2日目はいよいよ、校舎を飛び出し、まちに出て写真撮影を行う“パシャパシャタイム”がメインの日。バスで数分の場所にある京都府立丹後郷土資料館敷地内で、旧永島家住宅と天橋立の景色を撮影するパシャパシャタイムが始まった。
子どもたちは早速、敷地内を縦横無尽に駆け巡り、寝そべったり、しゃがんだり、上を見上げたり積極的に撮影。講師の吉田氏も「このままどんどん撮りましょう」「みんなすごい、かっこいいね」と言葉をかけてまわり、子どもたちは夢中になって写真を撮り続けていた。
- 子どもたちが撮影する様子
また、撮影を続けていく中で、カメラの機能や表現方法に興味をもち、1人でじっくりと撮影をしながら、何度も吉田氏にアドバイスを求めにいく子どもも。
吉田氏と子どもの交流の様子(撮影:安田哲馬)

このワークショップが、子どもたちにとって新たな世界に触れ、自分の興味や好きに気づくきっかけにもなっていると感じる光景だった。
パシャパシャタイムを堪能した後は、校舎に戻り子どもたちの写真をいくつかピックアップして講評を行いワークショップは終了。帰りのバスでは、子どもたちから「楽しかった!」という声が響き、吉田氏からも「どの写真も躍動感があり、みなさん最高でした」とコメントが述べられた。
全2回行った与謝の海支援学校でのワークショップでは、カメラという媒体を通して子どもたちが見てる世界、感じている感情をシェアしてもらえたことが一番印象的であった。
支援学校に通う子どもの中には、感情表現がうまくできなかったり、自分の思いを相手に伝えることが苦手だったりする子どももおり、態度や言葉からは興味や関心が判断しづらいことがある。しかし、子どもが撮る写真にはそれぞれの個性や色だけでなく、大好きな友だちがたくさん写っていたり、自分の好きなモチーフをひたすら写していたり、内に秘めた興味関心の対象が表れていた。障がいの有無に関わらず、皆で好きなものや、普段感じていることを共有して一緒に愉しむことができる、ということもカメラというツールや、写真という表現のもつ一つの可能性であると感じた。

私は、与謝の海支援学校の子どもたちの行動や写真から、世界は実はこんなに色鮮やかで豊かである、ということを教えてもらった。彼らの写真は、世間の常識にとらわれず、素直で、自由で、個性的で、自分がいいな、好きだな、と思うものがストレートに表れているように感じた。写真のうまい下手、カメラ経験の有無に関わらず、子どもたち一人ひとりが、アーティストとして輝いていた。
与謝の海支援学校の子どもたちから、大人が忘れていた大切なものを学ぶ。そんなワークショップにもなったように思う。

記事執筆・写真
■筒井章太(Tsutsuti Shota)
1995年生まれ。北海道滝川市出身。立命館大学文学部を卒業後、広告代理店に入社。中国支社を立ち上げ20社以上の日本企業の中国進出を支援する。2022年3月FoundingBaseへ入社し、現在は京都府宮津市の「クロスワークセンターMIYAZU」を中心とした関係人口創出事業に従事。昨年度の地域プログラム(丹後)の「参加型ワークショップ―Kaico」では、学ぶ編への登壇、およびトークイベントのファシリテーターを務める。
令和6年度京都府地域プログラム(丹後)
写真ワークショップ『パシャパシャ丹後-はた織りと共にある暮らしを覗く』
出張写真ワークショップ | 京都府立与謝の海支援学校
実施日|2024年9月17日(火)・9月25日(水)
プログラムの詳細は▼こちら
https://kyotohoop.jp/program/tango2024/
令和6年度京都府地域プログラム(丹後)
Kaico-参加型アートプロジェクト『パシャパシャ丹後-はた織りと共にある暮らし』事業レポート一覧
●出張写真ワークショップ(与謝の海支援学校編)
(記事執筆:筒井章太(クロスワークセンターMIYAZU・コンテンツディレクター))