丹後地域|京丹後市・宮津市
令和6年度の地域プログラム(丹後)では、昨年度と同様、「Kaico―参加型アートプロジェクト」として、約1300年前から織物の里であり、国内最大の絹織物産地である丹後地域の日本遺産『丹後ちりめん回廊』への理解を深め、次世代を担う子どもたちをはじめとする地域住民自らがその価値や魅力を表現し、発信する取り組みを丹後地域の2市2町で、〈写真ワークショップ〉と、写真ワークショップ参加者と講師が出展した〈展覧会〉を展開しました。
写真表現を通じて丹後地域を見つめた今年度のKaico―参加型アートプロジェクト「パシャパシャ丹後」では、どのように「まち」と「ヒトとヒト」の交流が起きたのか。宮津市にある、ヒトとのヒトとの交流を生むコワーキングスペース「クロスワークセンターMIYAZU」で、コンテンツディレクターを務める筒井章太さんに取材していただきました。
まずは、8月18日に網野町と天橋立で行った、写真ワークショップ「パシャパシャ丹後―はた織りと共にある暮らしを覗く」の様子をお届けします。
令和6年度京都府地域プログラム(丹後)
パシャパシャ丹後|写真ワークショップ
パシャパシャ丹後-はた織りと共にある暮らしを覗く
日時|8月18日(日) 10:00~17:00
講師|吉田亮人(写真家)
小山元孝(福知山公立大学教授)
堂前佳穂(KYOTOGRAPHIEキッズプログラムマネージャー)
臼井勇人(臼井織物株式会社 織り手/たてつなぎ & Cijimu織物担当)
対象・定員|中学生以上一般20名程度
▼網野の機屋の町並み-天橋立コース概要
集合場所|浅茂川区民会館
京丹後市網野町浅茂川180010:00 織物レクチャー
10:50 カメラレクチャー
12:10-13:00 昼食休憩
13:00 パシャパシャタイム(網野町の機屋の町並み、機織り工場など)
14:00 ↓バス移動
15:00 パシャパシャタイム(ふるさとミュージアム丹後(丹後郷土資料館)、旧永島家住宅、天橋立など)
16:00 ↓バス移動
16:45 ふりかえり
17:00 終了
青空と白い雲が広がり、茹だるような熱気に包まれたお盆明けの8月18日。写真ワークショップ「パシャパシャ丹後-はた織りと共にある暮らしを覗く」網野の機屋の町並み-天橋立コースが開催された。
午前中は、日本遺産「丹後ちりめん回廊」の構成文化財である網野・弥栄の機屋の町並みの一角にある浅茂川区民会館を会場に織物文化のインプットとカメラの撮影実習を実施した。
まずは、福知山公立大学の小山元孝教授によるレクチャーからスタート。明治時代の小学生が1日に何度も丹後ちりめんの仕事を手伝う様子が綴られた夏休みの日記など、歴史資料を交えながら織物文化を中心に栄えた丹後の歴史が話された。

歴史を吸収したあとには、臼井織物の臼井勇人氏による丹後ちりめん精練実験を実施。 丹後ちりめん最大の特徴である「シボ」ができる様子が実演された。

織物レクチャーが終了した後は、写真家の吉田亮人氏らによるカメラレクチャーが行われた。レクチャーの中で吉田氏は、鳥のように俯瞰して高い視点から写真を撮ったり、虫のように地面に思いっきり近づくなど、周りを気にせずに様々な視点や角度から写真を撮ることが、躍動的な写真を撮るコツである。といったテクニックを伝授。参加者は、写真を撮る際の心構えや写真の見方・撮り方を教わった。

自己紹介タイムを兼ねた昼食が終わった後は、いよいよ町にでて写真撮影を行う“パシャパシャタイム”がはじまった。参加者は網野町の機屋の町並みを、カメラを通して覗いていく。
最初は遠慮がちに町を歩き、同じような写真を撮っていた参加者だが、講師の吉田氏の 「もっと自由に、自分がいいなと思ったモチーフを見つけた時は思いっきり近づいたり、何度も何度も撮ってみてください」という言葉で、各々が興味を持ったポイントで立ち止まったり、地面スレスレまでしゃがんで写真を撮るなど、参加者それぞれの感性や個性が徐々に解放されていく様子が印象的だった。

現役で稼働する織物工場の中も見学することができ、織機(しょっき)が何十台も並ぶ圧巻の光景をみることができた。参加者は工場内を歩き回り、織機にギリギリまで近づいて部品の精巧さに感嘆したり、片隅に貼ってある何十年前のポスターや、長年受け継がれている作業道具などを発見し、工場の歴史の積み重ねを感じていた。
カメラで写真を撮るという制限が、逆に発想や自分自身を自由にし、様々な魅力に気づくきっかけとなっているのが面白い。
筆者撮影

また、まちを歩いて視ることで、参加者は普段は見逃している風景や、隣接する建物同士の関係性にも目を向けることができているようだった。
現役の機屋と元機屋が混在する網野町の浅茂川区には、大正・昭和からある宴会場を備えた立派な宿や、個人商店や食堂が点在している。まち並みに残るちりめんで栄えた当時の暮らしに思いを馳せると、人々のはしゃぐ声、はた織りの音、食事の匂いまで漂ってくる感覚になった。

網野町でのまち歩きが終わった後は、バスで天橋立を眼前に臨む丹後郷土資料館へ移動し、茅葺屋根が特徴の江戸時代(1840年建立)の民家である旧永島家住宅と天橋立の景色を撮影するパシャパシャタイムとなった。
吉田氏は、参加者に一人ひとりに寄り添い「その写真(構図)いいですねえ」「この国分寺の史跡と組み合わせて撮ったらもっとストーリーが生まれるかも」など声をかけ、参加者は一般的なイメージに縛られない、自分だけの天橋立を見出し撮影していた。

最後に、参加者数名の写真をピックアップして講評が行われた。
撮影された写真は雰囲気も構図も十人十色で、参加者それぞれの興味や個性、価値観が映し出されている。個性が反映された写真を見合うことによって、講評の時間は他者を知り、交流する時間ともなった。

参加者からは、「カメラを学びに来たが、丹後への理解も深まりもっと丹後のことを知りたくなった 」、「同じ景色でも角度や高さを変えるだけで、こんなにも見え方や感じ方が変わるのかと驚いた」、「地元のことを何も知らなかったけど綺麗だな、と思う瞬間がたくさんあった。地元を少し好きになった」といった感想を聞くことができた。
カメラを通じて、地域の魅力や資源を再発見し、主体的に地域に関わり、地域を愉しむ人を増やす。カメラの撮影技術習得だけにとどまらない、地域住民のシビックプライドにも繋がるワークショップであったように思う。

(記事作成日|2024年9月6日)
記事執筆・写真
■ 筒井 章太|つつい しょうた
1995年生まれ。北海道滝川市出身。立命館大学文学部を卒業後、広告代理店に入社。中国支社を立ち上げ20社以上の日本企業の中国進出を支援する。2022年3月FoundingBaseへ入社し、現在は京都府宮津市の「クロスワークセンターMIYAZU」を中心とした関係人口創出事業に従事。昨年度の地域プログラム(丹後)の「参加型ワークショップ―Kaico」では、学ぶ編への登壇、及びトークイベントのファシリテーターを務める。
令和6年度京都府地域プログラム(丹後)
Kaico-参加型アートプロジェクト『パシャパシャ丹後-はた織りと共にある暮らし』
写真ワークショップ「パシャパシャ丹後-はた織りと共にある暮らしを覗く」
コース別日時・対象|
①網野の機屋の町並み-天橋立コース(小学生親子)
日時|8月17日(土) 10:00~17:00
対象|小学生親子(*)10組20名程度
②網野の機屋の町並み-天橋立コース(一般)
日時|8月18日(日) 10:00~17:00
対象|中学生以上一般20名程度
③ちりめん街道-伊根の町並みコース(一般)
日時|9月7日(土) 10:00~17:00 ※雨天の場合は9月8日(日)
対象|中学生以上一般20名程度
参加|無料(要申込/先着順)
講師|吉田亮人(写真家)
小山元孝(福知山公立大学教授)
堂前佳穂(KYOTOGRAPHIEキッズプログラムマネージャー)
臼井勇人(臼井織物株式会社 織り手/たてつなぎ & Cijimu織物担当)
森山道子(手作り紙芝居)※8/17のみ
主催|京都:Re-Search実行委員会(京都府、宮津市、京丹後市、伊根町、与謝野町、海の京都DMO ほか)
機材協力|キヤノンマーケティングジャパン株式会社
協力|MUZ ART PRODUCE
助成|令和6年度文化庁文化芸術創造拠点形成事業
プログラムの詳細、講師プロフィールは▼こちら
https://kyotohoop.jp/program/tango2024/
令和6年度京都府地域プログラム(丹後)
Kaico-参加型アートプロジェクト『パシャパシャ丹後-はた織りと共にある暮らし』事業レポート一覧
●写真ワークショップ(網野の機屋の町並み-天橋立コース編)
(記事執筆:筒井章太(クロスワークセンターMIYAZU・コンテンツディレクター))