南丹地域|南丹市
現代美術家・ヤマガミユキヒロさんとともに、南丹地域の魅力を再発見する取組として実施してきた『京都山河抄~京都丹波の光景~』。丹波猿楽などにゆかりが深い南丹地域の、伝統芸能を育んだ地域性に着目して、2024年の5月からヤマガミさんがリサーチや公開制作、地域交流、そして制作発表に取り組みました。
「ワークショップ」、「公開制作」、「リサーチ」に引き続き、展覧会『京都山河抄~京都丹波の光景~』および座談会を含め、プログラムの講評を美術批評家の平田剛志さんに執筆いただいきました。
令和6年度京都府地域プログラム(南丹)
京都山河抄~京都丹波の光景~|講評
展覧会「京都山河抄~京都丹波の光景~」は、古民家のアトリエに入ったように、「制作過程」が生き生きと感じられる展示だった。
今年度の滞在作家であるヤマガミユキヒロは5月から約6ヶ月間、南丹市美山町や日吉町など南丹地域のリサーチを重ねてきた。ヤマガミが特に魅かれたのが、かやぶき屋根の古民家と美山に広がる山々の稜線、豊かな川の流れがつくる風景だった。7月のワークショップ、8月の公開制作と定期的に制作過程を公開してきたヤマガミが見た「京都丹波の光景」とはどんな風景だったのか。以下では、ヤマガミが見た美山の風景、地域がアーティストに与えた影響を振り返ってみたい。
会場には、美山を中心とした南丹地域の風景をスケッチした原画や鉛筆画に同一視点からの映像をプロジェクターで投影するヤマガミ独自の技法「キャンバス・プロジェクション」による新作など8点(組)が展示された。
《京都山河抄》は、地域の環境音とともに南丹地域の風景が描かれる過程が「紙芝居」仕立てで移り変わる映像作品だ。黒い背景に鉛筆画が置かれると、画面の絵画は白黒から着彩画へと変化する。しばらくすると画面外からヤマガミの手が出て、1枚また1枚と絵が変わっていく。途中にはヤマガミの言葉が散文形式で差し込まれ、絵と文字を書き記す画家の手の動きとまなざしから、鑑賞者はヤマガミの南丹地域での取材と絵画制作を追体験する。

(2024年/映像作品/13分22秒)展示の様子
本作では、田歌地区の祇園囃子や樫原地区のからす田楽の囃子の音、八木地区の田園沿いに吹く風の音など、ヤマガミが南丹地域各地を描いた際に耳にした、地域の環境音が使用されている。
《京都山河抄(下吉田大橋より由良川を望む)》は下吉田大橋から見た由良川の風景を描いた鉛筆画に同じ視点から撮影した動画を投影する作品だ。8月17日、18日の公開制作時に制作していたのが本作である。公開制作時には描いている部分より白い部分が多かったが、完成作では山の全容が描かれるだけでなく、夏の雲や光の変化など、美山の夏の映像が重ねられている。作品の前のテーブルにはスケッチと鉛筆が広げられ、スケッチを描き終えたような気配が漂う。
《京都山河抄(下吉田大橋より由良川を望む)》
(2024年/キャンバス・プロジェクション/8分21秒)

(2024年)
《京都山河抄(梅若家 展墓)》は、日吉町殿田の曹源寺にある丹波猿楽の名家である梅若家の墓所に向かうまでのスケッチをまとめた映像だ。ヤマガミがこれまで能楽とのコラボレーションや公演、作品制作を重ねてきた関心から、丹波猿楽のリサーチとして行った成果である。

(2024年/映像作品/7分35秒)展示の様子
本作は、山の斜面の階段を上り墓所に向かうまでの道のりを描いた複数の鉛筆画が、コマ撮りのように次々に現れる映像と、梅若家にとって特別な意味を持つ演目『芦刈』の謡が流れる。
2階には美山かやぶき資料館を描いたヤマガミの絵に7月27日、28日に開催されたワークショップ参加者が彩色した風景画が重ねられた映像《百色百景 みんなの風景 in 美山》を展示。同じ場所ながら、参加者それぞれのタッチや色彩が感じられ、風景の見え方や表現方法の多様さが感じられた。

(2024年/映像作品/6分14秒)展示の様子
以上、展覧会を振り返ると本展は美山の風景を現地で見る醍醐味とその絵画制作の現場を感じさせる展示だった。では、ヤマガミが南丹地域でのリサーチや公開制作を通じて表現したものとは何だろうか。それは、「原風景」を残す試みではないだろうか。これまでヤマガミが描いてきたのは東京駅や京都など都市風景や歴史的な場所、名所が多かった。対して今回は人工物がほとんどない無名の自然風景である。だが、自然の風景とは人の手が入っていない場所ではない。田畑は人間が作り続けてきた田園風景であり、美しい山稜も定期的な樹林の伐採によって管理されてきた風景である。つまり、植物があるから自然の風景なのではなく、自然の風景の背後には、風景を守り、残し、維持する人々がいるのだ。美山はそうした人と風景のつながりが生きている地域だった。ヤマガミは今回の美山滞在で、今は失われつつある人々の暮らしと文化、風景が繋がりをもって営まれる「原風景」を見出し、描き出したのだ。
一方、美山は過疎化や高齢化、空き家の増加によって伝統文化や風景の継承が難しい状況にある。地域の文化が途絶えることは、その風景が失われるに等しい。人々の暮らしとともにあった美山の風景はヤマガミの風景画によって残り続けるのか、再びまた訪れることができる風景としてあるだろうか。ヤマガミが南丹地域で見出した風景への思いは、風景や文化を次代に伝え残す新たな物語のはじまりかもしれない。

(2024年/映像作品/5分40秒)
(記事作成日|2024年12月10日)
記事執筆・写真
■平田剛志(HIRATA Takeshi)
美術批評。1979年生まれ。関西の現代美術をフィールドに、新聞・雑誌やフライヤー、ウェブメディア等に寄稿。主な論考は、「山本雄教展 sign」(+1art、2024)、「記憶をひらく」『すべ と しるべ 2020図録』(ギャラリー・パルク、2021)、「パランプセストの風景」『ヤマガミユキヒロ展 ロケーション・ハンティング』(A-Lab、2016)など。
令和6年度京都府地域プログラム(南丹)
展覧会『京都山河抄~京都丹波の光景~』
▼展覧会
会期|2024年10月12日(土)~11月10日(日)
休館|火・水・木曜日
開館時間|10:00~16:00
会場|美山かやぶき美術館
作家|ヤマガミユキヒロ
入場|無料
作家在廊日|2024年10月13日(日)、10月26日(土)、11月9日(土)
入 場|無料・申込不要
会 場|美山かやぶき美術館
共 催|美山かやぶき美術館
協 力|美山町宮島振興会、樫原田楽保存会、世木の伝統芸能を守る会
▼座談会
開催日|2024年11月9日(土)
時 間|14:00~15:30
会 場|美山かやぶき美術館
登壇者|
ヤマガミユキヒロ
青田真樹(美山町宮島振興会・美山かやぶき美術館)
山口恒一(樫原田楽保存会 代表)
井尻治(梅若家屋敷跡保存会 会長)
参 加|無料・要申込
参加人数|21人(定員30人)
詳細やヤマガミさんのプロフィールは▼こちら
https://kyotohoop.jp/program/nantan2024/
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(記事執筆:平田剛志(美術批評家))