丹後地域|丹後地域全域
2023年8月18日(金)~11月4日(土)にかけて、丹後地域で開催した地域プログラム『Kaico-参加型アートプロジェクト』。丹後地域のマテリアル(資源)である「布」と「糸」を使って、それぞれの町が持つ個性を1つの作品に作り上げ、展示までを参加者の皆さんに体験いただきました。
今回は、【共有編(展示】の最終日11月4日(土)に実施したクロージングイベントのうち、『Kaico-参加型アートプロジェクト』を振り返るラウンドトーク「“アートプロジェクトって何だろう?”はどうだった?」の様子をお届けします。
2023年度地域プログラム
Kaico-参加型アートプロジェクト【共有編(展示)】ラウンドトークレポート▼目次
●クロージングイベント概要
●“アートプロジェクトって何だろう?”はどうだった?
●地域住民が織物に触れるきっかけに
●すべての工程が“人ありき”
●手芸をアートプロジェクトに取り入れる
●自分もアートの一部に
●Kaico-参加型アートプロジェクト 全体概要記:上村裕香
編集:大賀由佳子(京都府文化芸術課・専門人材)/
甲斐少夜子(京都府地域アートマネージャー・丹後地域担当)
クロージングイベント概要
日時|2023年11月4日(土) 14:00-16:00
会場|ふるさとミュージアム丹後(京都府立丹後郷土資料館)屋外広場
内容|
①14:00-15:00
ワークショップ 「町を縫うmix」|
②15:00-16:00
ラウンドトーク「“アートプロジェクトって何だろう?”はどうだった?」
登壇者|西尾美也/臼井勇人/谷口実里/新井勝子/武田美貴/甲斐少夜子
ファシリテーター|筒井章太
“アートプロジェクトって何だろう?”はどうだった?
参加型アートプロジェクト「Kaico」のクロージングイベントが2023年11月4日(土)にふるさとミュージアム丹後(京都府立丹後郷土資料館)屋外広場で行われました。当日は、天橋立を見下ろすかのように、郷土資料館の外壁に展示された作品のそばで、ラウンドトークを開催。登壇者は、丹後地域の方々と協働制作をして生まれたテキスタイル作品《町を縫う》を見上げながら、8月からはじまったアートプロジェクトの様子を振り返りました。
地域住民が織物に触れるきっかけに
クロスワークセンターMIYAZUを運営する筒井章太さんをファシリテーターとし、「“アートプロジェクトって何だろう?”はどうだった?」というテーマで1時間ほどのトークセッションを行いました。
登壇者は、服とコミュニケーションをテーマに活動される美術家の西尾美也さん、折り紙やパッケージのデザインをされている武田美貴さん、与謝野町在住のアーティストである新井勝子さん、宮津市在住のアーティスト・谷口実里さん、丹後ちりめんの織元・臼井織物の臼井勇人さん、京都府地域アートマネージャーの甲斐少夜子さんです。武田さん、新井さん、谷口さんの3人は本プロジェクトのクリエイティブ・リーダー(CL)を務めました。
まずは、臼井さんから丹後ちりめんとはどういうものかについての説明がありました。強いねじりを加えた緯糸と経糸をつかって織り、精錬加工を行うことで生地の表面にシボと呼ばれる凹凸が生まれる「丹後ちりめん」は、湿気の多い丹後地域だからこそ生まれたマテリアル(資源)です。生地提供者として、臼井さんは「丹後地域に5年前に帰ってきたとき、『織物業と地域の人の関わりが薄いな』と感じたんです。丹後織物は都市や海外向けに商品をつくっていて、地域の人の接点があまりない。そうしたなかで、イベントを通して丹後地域の方が織物に触れるきっかけができ、関わりをもちやすくなったと感じます」と話されました。
すべての工程が“人ありき”
今回のアートプロジェクトを振り返り、CLの谷口さんは「町を歩くワークショップでは、思い出深い地元の土地を巡りました。苦しい思い出もありましたが、実際に完成した作品を見たときには“愛おしいなあ”と感じて。苦しさから愛おしさに変わるまでの過程を体験させていただきました」と土地への思いとプロジェクトを通しての発見を語りました。
同じくCLで与謝野町在住の新井さんは、多くのワークショップに参加された感想を次のように話されました。
「ワークショップに参加されたいろんな方の感性が混じって、自分が想定していないような作品ができることがおもしろかったです。すべての工程が“人ありき”なので、縫いながらさまざまな人とお話しできたり、新たな出会いがあったりして、やっぱり“人だな”と感じました」。
手芸をアートプロジェクトに取り入れる
京丹後市在住の武田さんはアートプロジェクトで地域の方々と町を歩き、縫う時間が「ほっこりした」と話し、時間に余裕のない日々を過ごすなかでいろいろな人とアートに向き合うことの大切さを感じたといいます。
筒井さんも「アートプロジェクトって聞くと、ハードルが高い印象があったんですが、参加すると真逆だなと思いました。その場に集まる人たちは十人十色で、観光客と大学生、高校生と我々のように偶然の出会いが生まれる。アートプロジェクトは『町と人が関わるきっかけ』にもなることを勉強させてもらいました」と、アートプロジェクトによって、人間関係も作品のように広がっていくおもしろさを感じたと話しました。
アーティスティック・ディレクターを務めた西尾さんは「ファッションを通してどうやって人とつながれるかを探求するなかで『町を縫う』という遊びも生まれてきました。いまは『遊び』とあえて言っていますが、丹後地域は丹後ちりめんが根付いているからこそ、遊びにさそったときに乗ってきてくれる。そこに、丹後の土地性があると感じます。同時に、丹後ちりめんに手芸という技法で関わっていく機会は、あるようでなかったとも思うんです。手芸は、美術から遠ざけられてきたものです。女性が家庭の中で行うものとして、社会から退けられてきたやり方でもあります。でも、いざアートプロジェクトとしてやってみると、性別関係なくやっている。これからの町を考えていくとき、そういったやり方がヒントになることを体現できたと思います」と、今回のプロジェクトを振り返りました。
自分もアートの一部に
イベント後半はアートプロジェクトの課題と未来の展望につながる話が展開しました。イベントの企画コーディネートを担当した甲斐さんは「今回の出張ワークショップでは地域発のイベントにも出展し、普段アートプロジェクトや美術館に積極的に足を運ぶことがない方々にも参加していただくことができました。『自分もアートの一部になっている』ということを、少しずつ、アメーバのように地域の人に感じてもらうことはできたのかなと感じています」と、Kaicoの成果が、積極的にアートに親しんでいない方々にもアプローチできるプロジェクトの在り方だったのでは、とヒト・モノを繋いだ実感が語られました。
武田さんは手芸をアートプロジェクトに取り入れるという西尾さんの話に関連し、「『アートプロジェクトに手芸は入ってこない』と勝手に思い込んでいたことに気付かされました。手芸は間口が広くて緩いので、『みんなで一個の作品をつくっている』という実感がないときもあったんですが、完成品を見ると改めて、手芸ってすばらしいなと感じました。手芸や民芸などの、生活の中から生まれた実用的な工芸がアートまで上り詰めてきた感じがしました」と話しました。
イベントの終わりには2022年に京丹後に移住したという地域の方から「ワークショップに参加して、みんな黙って縫っていたり、縫うのを忘れてしゃべっていたりする、その空間を作り上げたことがアートプロジェクトの成果だと思う」といった感想が寄せられました。
参加型アートプロジェクトを今後どう展開していくのか、丹後地域のマテリアルをちがうかたちでどう利用していくのかについても、さまざまな意見が飛び交い、改めてアートプロジェクトってなんだろう? という問いをそれぞれが問い直す機会になりました。
2023年度地域プログラム(丹後)
『Kaico-参加型アートプロジェクト』全体概要
会期| 2023年8月18日(金)〜11月4日(土)
参加| 無料
参加者・来場者数|計1,584名
主催|京都:Re-Search実行委員会(京都府、宮津市、京丹後市教育委員会、伊根町、与謝野町、海の京都DMOほか)
助成|令和5年度 文化庁 文化芸術創造拠点形成事業
そのほか、参加アーティストのプロフィール・協力等の詳細は▼こちら
2023年度事業報告書(PDF)