南丹地域|南丹市
2022年10月10日(月・祝)〜10月23日(日)にかけて、南丹市八木町で開催したアートイベント『Nantan Remix 2022』。イベント期間中に実施された「美術展覧会」「アーティストトーク」「タウンミーティング」「ラウンドテーブル・ディスカッション」の4つのプログラムのうち、今回はタウンミーティングの様子をレポートします。
タウンミーティング「国際芸術祭『南丹アートフェスティバル2023(架空)』を考えてみる」
2022年10月22日(土)に開催されたタウンミーティングでは、「国際芸術祭『南丹アートフェスティバル2023(架空)』について考えてみる」と題し、南丹市と姉妹都市のフィリピン・マニラ市*とで国際芸術祭を実施するとしたらどのような面白い企画が立てられるのか、地域の方々とアーティストでアイデアを出し合いました。
- *南丹市(旧八木町)とマニラ市は、戦国武将で八木城城主だった内藤ジョアン(1544年-1626年没)がキリシタン追放令によりマニラへと追放されその地で没したという史実を背景に、1985年に姉妹都市となりました。
タウンミーティング進行
Load na Dito(ロード・ナ・ディト)
マニラで活動するリサーチとアート・プロジェクトのためのモバイルプラットフォーム。本ミーティングにはキュレーターの平野真弓(左)とアーティストのマーク・サルバトス(右)がマニラからZoomで参加した。
タウンミーティング参加者(1):地域の方々
平井静男
南丹市地域振興部長。2016年に園部高校の生徒がマニラにある内藤ジョアン顕彰碑に献花した際に同行した。
國府美紀
Nantan Remix 2022 と同時期開催された地域発の芸術祭『アートフェスティバル in やぎ』を企画、運営した京都南丹Yagi-JAM実行委員会代表。
廣瀬孝人
京都南丹Yagi-JAM実行委員会事務局員。
城戸康二
八木の魅力を発信する『まちめぐりマップ』やウェブサイト『やぎパラナビ』などの作成に携わっている。
タウンミーティング参加者(2):Nantan Remix 美術展覧会 参加アーティスト
荒木悠
アーティスト、映画監督。
身体0ベース運用法
アーティスト。
Yukawa-Nakayasu
アーティスト。南丹市とマニラ市が姉妹都市という点に関心を持ち、疎遠になりつつある両者のつながりをアートで再構築できないかと本ミーティングの開催を提案した。
Load na Ditoの活動について
[Load na Dito] : まずはじめにLoad na Ditoの活動について簡単にお話させていただきます。「Load na Dito(ロード・ナ・ディト)」という名前なのですが、フィリピンでは携帯電話を使うときに、必ずしも通信会社と契約しません。プリペイドSIMを買って、必要な通信容量をロード(チャージ)して使います。そして、「Load na Dito(ここでロードできます)」の看板のあるところならどこでも通信容量が購入できる仕組みになっています。私たちはこのコンセプトを借りて、固定の場所を持たずに様々な場所を移動しながら、場所場所に応じた形での展覧会やパフォーマンスを企画しています。
私たちの活動は、まず、人が集う場を作るというところから始まります。特に多様な人が交差する路上に注目していて、そこでいろいろな組織、アート関係ではない多様な人たちと協力関係を結びながらプロジェクトを展開しています。展覧会のための空間、美術館やギャラリーからお声がけいただいたときも、ただ作品を展示するのではなく、そこに人が集まって過ごすことのできる「溜まり場」のようなものを作っています。2019年には、フィリピンの田舎町で行われている収穫祭、自分の畑で獲れた農作物で自宅の正面の壁を飾るというお祭りから着想した『カビット・アート・サビット』という展覧会を企画しました。自宅の前に作品を展示するという展覧会で、だれでもどこででも参加できます。観客もアート愛好者だけではなく、近隣の人たち、偶然その前を通り過ぎて行く人たちで、フィリピン国内のいろいろなところで同時多発的に実施しました。
マニラのイメージ、南丹の魅力とは
[Load na Dito] : さて、みなさんがマニラについてどういうイメージを持っているのか、マニラについて知っていることをお聞かせ願えますでしょうか。
[平井] :6、7年前、園部高校のPTA会長をしていた時に、ノートや鉛筆を集めてマニラから北へ約50キロにあるマロロス市の小学校に届けることになり、せっかくなのでマニラ郊外のアダムソン大学内にあるジョアン顕彰碑も訪ねることにしました。マニラ空港に到着してスーツケースを受け取ろうとしたら、スーツケースのコンベアに日清のシーフードヌードルが大量に流れていて、その様子に衝撃を受けました。聞くと、フィリピンでとても人気があるので、みんながお土産として持ってくるとか。フィリピンと日本は味覚が近いんだなと思いました。
[國府] : フィリピンのことは実はあまり知らないのですが、八木では内藤ジョアンの話をいろんな方が話されているので、八木とマニラにつながりがあったことは知っています。私は大分県の出身なのですが、大分にも大友宗麟というキリシタン大名がいたので、八木にも同じような方がいたのだなぁと親近感を覚えました。
[Load na Dito] : 私たちはこのタウンミーティングの打ち合わせで、初めてジョアンについて知りました。魅力的な人物だったみたいですので、これから調べてみたいなと思っています。
今、マニラについて伺いましたが、次は南丹の魅力について、そして地域の課題もあると思いますので、その両面についてお伺いできればと思います。
[城戸] : 魅力は自然が美しいところ。自然が豊かながら、京都市という都市にも近い。この魅力を発信していくことが重要で、南丹市や八木町の外にいる人にどれだけ来てもらえるのか、巻き込んでいけるのかが課題です。
[廣瀬] :南丹市を含む京都丹波地域の「丹波」とは「赤い波」という意味で、太古は鉄分の多い赤い水の溜まった巨大な湖だったそうです。* 出雲の神様がその溜まった水を抜いたことで平地となり、国づくりが始まったと伝えられています。今の八木には大堰川が流れていますし、ここは水と共に成長して来た土地だと思います。ですので、大堰川が魅力だと思っています。
- *「丹波」の由来については諸説あります。
それともう一点、大堰川と国道9号線の間にある小さな商店街。こじんまりとしていますがそれ故に隣近所の顔が見える。声が聞こえる。小さい商店街だからこその魅力があると思います。
[國府] : 自然が豊かで、特に川の眺めが良いです。夕日が綺麗なんですよね。この場所を、都市部に転出した子ども達がいつでも帰ってこれる場所にしたい。鮎が川を遡上するように、社会に出た若い層が成長して帰ってこれるふるさとを守り続けていきたいと思っています。
[平井] : 八木は京都市の北に位置するので、昔から木材や食材を都に運ぶ後背地でした。都との関わりが深かったことで、文化的にも栄えた。現在の南丹市は、八木町を含めた4町が合併してできましたが、面責が非常に大きくて、琵琶湖とほぼ同じくらいです。そこに3万人しかいない。この広さは魅力ですが、市街地から離れたところでは人が散在しているので交通網の整備などが難しい。そのために人口がさらに減少していて、そこが課題です。
江戸時代に、木喰明満上人という日本全国を行脚していた僧が、八木を気に入ったようで長期間滞在し多くの木彫りの仏像を残しました。仏像は通常、あまり表情がないものですが、木喰上人の仏像は笑っていたり、ウインクしていたりとユニークです。それにあやかって、私たちはこの八木町のことを「微笑みのまち」とも呼んでいます。小さいけれどつながりの深いまちです。
姉妹都市であること
[Load na Dito] : マニラと南丹は姉妹都市ですが、ここ最近は両者の間であまり活発な交流が行われていないと聞いています。みなさんは、このマニラと南丹の姉妹都市提携についてどう考えていますか。
[平井] : 私は南丹市役所の職員ですが、合併前は八木町役場にいました。ですので、八木町との間で結ばれたマニラとの姉妹都市提携についてリアルタイムで体験しています。確か昭和58年(1983年)頃につながりが生まれ始めて、60年(1985年)に締結をするんですけれど、その頃には八木中学校とマニラの高校との交流プログラムがあったり、マニラの市長がこちらに来られたりしていました。八木町の消防車をマニラまで運んだこともあります。
元が民間主導で、行政間でつながるよりも地域住民同士で繋がってもらうというやり方だったため、中心を担われていた方々がご高齢になるとともにつながりが細くなりました。さらに、八木町が周辺の町と合併して南丹市になったことも細くなった一因だと思います。
[國府] : 南丹市役所八木支所(元八木町役場)に記念碑があるので、マニラと姉妹都市提携を結んでいるんだなと認識はしていました。でも、八木町の方々がみんな知っているのかと言えば、ちょっと薄くなっているのかなと思います。せっかくの歴史が途絶えてしまっていることは残念なので、できたら今後も今日のような機会を作っていけたらと思っています。アートは全世界共通だと思うので、そういうものを使って繋がれたいいなと思います。
[廣瀬] : 2020年のNHK大河ドラマの『麒麟が来る』で明智光秀が取り上げられ、光秀に滅ぼされた側である内藤ジョアンにも再びスポットが当てられました。ジョアンに由来するマニラとの関係も、この流れの中で深めていけたらいいなと思っています。
[城戸] : 1980年代は八木とマニラは姉妹都市として盛り上がっていたなぁという感じはあります。最近はその意識は薄くなっていて、恐らくいまの若い層、小中学生は、姉妹都市であることを知らないと思います。
[Load na Dito] : 姉妹都市提携された当時を知る方々のお話が聞けてよかったですし、貴重な知識でもあるので次世代に引き継いでいってもらえたらと思います。若い人たちが都会に出て行ってしまっている現状があり、そういった人たちがいつでも帰ってこられる町にするという、将来を考えた取り組みをされているということで、マニラと南丹の姉妹都市提携は、もしかしたらそのための魅力の一つとしてこれから育てていけるのもなのではないかと思いました。また、過去とのつながりを持ち続けるという意味でも、ジョアンを含めた歴史は重要です。
これから、『南丹アートフェスティバル2023(架空)』のプランについて、現実的な制約は考えずに話し合いたいと思います。八木とマニラの姉妹都市という点を意識しながら企画を考えていただけますか。
『南丹アートフェスティバル2023(架空)』のアイデア
[平井] : ジョアン内藤はキリシタン追放令でマニラに追放されたんですが、よく知られているのはジョアンではなく一緒に追放された高山右近なんですよね。でも、高山右近はルソンに行くときにはすでに体が弱っていて、マニラに着いてひと月くらいで亡くなってしまう。ジョアンはマニラで12年くらい過ごしたわけですから、実際、マニラで布教活動をしたのは右近ではなくジョアンなんです。それ以前にも、朝鮮との戦の時に小西行長とともに明と和平交渉をしているのですが、歴史上は行長の名前ばかりでジョアンは出てこない。ジョアンは平たく言うと、永遠のNo,2。なので、アートフェスティバルのテーマを「No,2」にしてはどうでしょうか。また、2026年にはジョアンがマニラで亡くなってから400年になります。2023年で終わるのではなく、2026年につながるような企画にしたらいいのではないでしょうか。
[國府] : Load na Ditoがマーケット形式のアートイベントをしたことがあると聞き、私は大堰川で船上マーケットをするといったアイデアを考えました。大堰川は見晴らしがいい。その船の上で物々交換ができるようなマーケットを開くという案です。
他には、木喰仏に関連した「微笑み祭り」。みなさんが笑顔になるような国際アート展や音楽イベント、映画祭みたいなものもいいと思います。
[廣瀬] : ジョアンは兜に十字架(クロス)を掲げていたと言われています。そのクロスをテーマに、「交わり」や「友好の絆」を印象付けられるようなアート展ができたらいいなと思っています。
[城戸] : 私は、八木城跡と大堰川を会場に何かできればと考えました。例えば、先ほど平井さんが「No,2」と話されていましたが、アメリカのロサンゼルスにあるハリウッドサイン(白いHOLLYWOODの文字)のように、城跡の山肌に大きな「No,2」の文字を掲げるのはどうでしょうか。電車に乗っている人がそれを見て、「なんや、なんかやってるのか?」と。また、大堰川はとても美しい川で、住民たちもそう認識していますが、まだ十分活かしきれていない気がしています。大堰川の堤防でプロジェクションマッピングをしたり、両岸をステージにして、人が集まるような、みんなが参加できるようなイベントができたらいいなと思います。
[Load na Dito] : みなさんありがとうございます。今日は、Nantan Remix 美術展覧会に参加しているアーティストたちも来てくれているので、企画のアイデアや感想などお聞かせいただけたらと思います。
[荒木] : 国際展のためにマニラに行けるとしたら行きたいのですが、ただ、マニラに行ったアーティストが見たものを作品に置き換えて、こちらの人に体験してもらうというのでは弱い。だから、何か事故のようなことを起こさないとダメだろうと思います。例えば、楳図かずお先生の《漂流教室》、教室が丸ごと異次元に流されてしまうという、あれと同じように八木中学校の2年生のひとクラスが丸ごとマニラに行ってひと夏過ごす。逆にマニラからもひとクラス八木にきて滞在してもらう。その中には、新しい環境に合う子もいれば、合わない子もいる。外の世界を体験して、地元の良さを思い知るかもしれない。でもそこから様々なものが生まれます。まちおこしと言いますが、実際には「ひと」をおこすわけで、アーティストが何かを作って見せるのではなくて、種まきみたいなことをしなくてはいけない。内藤ジョアンという17世紀の武将が八木とマニラの関係性のシンボルになっていますけど、現代とは400年もの開きがあります。そろそろ次世代の内藤ジョアンを産むことを考えたほうがいいのではないでしょうか。そのためのエクスチェンジプログラムはどうかなと思いました。
[身体0ベース運用法] : 南丹とマニラは姉妹都市で、でも今の人たちにはその感覚がほとんどないみたいですので、まずは両者の間に姉妹関係を作っていくということが大事なんじゃないかなと思います。大きなことというよりは、僕は日常の生活が大切だと考えていて、そこでの共有、例えばお腹を満たすもので繋がってみるのはどうでしょうか。私が講師をしている京都市立芸術大学の学生が、自分のよく知らない国の料理を食べたいと思ったけれど作り方がわからないので、SNSで作り方を教えて欲しいと発信したことがあるんですね。そうしたらその国の人から連絡があって、お互い言葉がわからないのでウェブ翻訳機とかを使いながらコミュニケーションをとって料理を作ることが出来たそうです。調味料などは手に入らないものも多く代用品を使ったので、それが本当にその国の料理と呼べるものなのかはわかりませんが、料理を作って食べることでその国とつながった感覚が生まれます。そんな気軽なところから始めて、徐々にステップアップしていけばいいと思います。
[Yukawa-Nakayasu] : 今日、「溜まり場」というキーワードが出ましたが、京都丹波地域が「赤い湖(水の溜まり場)」を意味するというエピソードにも通じるものがあります。ですので、例えば商店街の中に、マニラのアーティストからの指示で料理を出したり、映画を上映する溜まり場を作ってみる。マニラ側から指示をもらうだけではなくて、こちらからもやりとりをして試行錯誤しながら作り上げて行く。試行錯誤することで見た人がクスッと笑えるような、料理で言うとB級グルメみたいなものが生まれる。B級グルメは土地に根付いて残っていくじゃないですか。
確かイスタンブール・ビエンナーレだと思うのですが、まちの広場から見える橋のライトを点滅させるという作品がありました。まちの人たちはそのライトが点滅するとみんな拍手するんです、「おめでとう」って。じゃあ、何が起きたのかっていうと、出産です。まちで子どもが生まれた瞬間に、そのまちのシンボルでもある橋を光らせるんですね。すごくシンプルなことですけど、まちにとって喜ばしい出来事が風景の中で共有されている。そういった作品がヒントになるのではないかと思います。マニラや日本のアーティストが地域の人たちと具現化させた作品が、普通の、日常生活の中に見えた瞬間に、ふたつの地域が交わっていると言えるのではないでしょうか。
[Load na Dito] : みなさん大堰川の話をされていましたが、マニラにも同じような存在としてパシッグ川があります。ですがマニラは今、都市化が進んでいて、政府がその川沿いに高速道路の建設を進めています。川岸には非公式な居住地があるのですが、そこの人たちが退去させられていたり、環境面でも開発による大きなダメージが懸念されるなどの問題に直面しています。みなさんのアイデアは、日常の小さな問題意識から生まれてきているものだと思うので、私たちもそこに関連付けられるような小さな点を見つけられれば、大きな運動へとつながっていくのかなと思います。本日はありがとうございました。
次回は、Nantan Remix 美術展覧会 参加アーティストが、地域とアートの関わりについて、これまでの経験や自身のスタンス、課題と考えていることなどを話し合った、ラウンドテーブル・デスカッションの様子をレポートします。
▶【レポート】 Nantan Remix 2022|ラウンドテーブル・ディスカッション:地域とアート、アートと地域 」へ続く
アートイベント【Nantan Remix 2022】概要
会期|2022年10月10日(月・祝)〜10月23日(日)
※金・土・日・月のみ実施
会場|ちびねこ映写館/川定/
オーエヤマ・アートサイト(八木酒造)/
南丹市八木市民センター 文化ホール
参加アーティスト|荒木悠/身体0ベース運用法/Yukawa-Nakayasu/Load na Dito
入場|すべて入場無料
主催|京都:Re-Search実行委員会(京都府、他)
後援|南丹市
助成|令和4年度 文化庁文化芸術創造拠点形成事業
タウンミーティング
「国際芸術祭『南丹アートフェスティバル2023(架空)』を考えてみる」
日時|2022年10月22日(土)14:00-15:30(開場13:30)
会場|南丹市八木市民センター 文化ホール
イベント概要等はこちら▶︎【Nanatan Remix 2022】
(記事執筆:宮下忠也(京都府地域アートマネージャー・南丹地域担当))