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[イベントレポート] Nantan Remix 2022|美術展覧会

南丹地域|南丹市

2022年10月10日(月・祝)〜10月23日(日)にかけて、南丹市八木町で開催したアートイベント『Nantan Remix 2022』。

本イベントは、2020〜2021年度に実施されたアーティスト・イン・レジデンス事業『京都:Re-Search in 南丹』および展覧会『大京都 2021 in 南丹−南譚:介在する因子』に触発され、2022年に地域発のアートイベント『アートフェスティバル in やぎ』が開催されることを受け、「地域とアート」が交わることの意義や可能性、問題点などについて、地域の方々とアーティストで共に考えるために企画されました。
イベント期間中に実施された「美術展覧会」「アーティストトーク」「タウンミーティング」「ラウンドテーブル・ディスカッション」の4つのプログラムのうち、まずは美術展覧会の様子をお届けいたします。

 

 

tempo

 

アーティスト|荒木悠
(『京都:Re-Search 2020 in 南丹』、『大京都 2021 in 南丹−南譚:介在する因子』ゲストアーティスト)
会場|ちびねこ映写館(京都府南丹市八木町八木鹿草66)


作品概要

荒木は、2021年のアーティスト・イン・レジデンス事業展覧会『大京都 2021 in 南丹−南譚:介在する因子』で、南丹市八木町駅前商店街の空き店舗など5箇所に作品を展示しました。その展示会場のひとつ旧小川お茶店では、閉鎖された店舗の一角を間借りして「八木野菜花市」という地元産の農作物の販売所が開かれていました。荒木は、旧小川お茶店に展示した自身の作品《蜥蜴と蜘蛛》の展示風景をカメラで記録し始めたのですが、やがて作品ではなく、そこで店番をしている八木悟さんに焦点を合わせるようになります。こうして、一人の男性の姿を通して八木の日常を描き出す新たな作品が生まれました。
今回、この作品が上映された「ちびねこ映写館」は、2021年に荒木が映像作品《ROUGH CUT》を展示するために整備した元薬局です。『大京都 2021 in 南丹』の終幕以降は、地域の団体がその場所を追加で改装し、ミニシアターとして運営しています。つまり、荒木が2021年に八木で作品を展示したことをきっかけに生まれた作品が、八木で展示したことをきっかけにできた劇場で上映されたということになります。したがって短編映像作品《tempo》は、『大京都 2021 in 南丹』の荒木自身の展示を再構築しつつ、八木という地域の再生にも寄与する長編プロジェクトとして捉えることができるでしょう。

    解説|宮下忠也(地域アートマネージャー・南丹担当)

八木の本町通りでひっそりと営業している八木野菜花市。
ここでお店番をしている八木悟さんの肖像をカメラにおさめた。
限られた営業時間、展覧会会期、旬の野菜、季節の変わり目…。
さまざまなtempo(時間)の交錯を店先から描き出す実験ドキュメンタリー。

    −荒木悠

《tempo》 2022年/HDV映像、サウンド、20分/出演:八木悟/撮影場所:八木野菜花市(旧小川お茶店内)/撮影期間:2021年10月1日~11月7日/謝辞:南丹市八木町の皆さま、宮下忠也/製作:京都:Re-Search実行委員会

『大京都 2021 in 南丹−南譚:介在する因子』の旧小川お茶店《蜥蜴と蜘蛛》の展示風景

 

 

 

0GYM-日本身体遺産 保津川下り編

アーティスト|身体0ベース運用法
(『京都:Re-Search 2018 in 亀岡』、『大京都 2019 in 亀岡−移動する有体* 』参加アーティスト *新型コロナ感染症の影響により開催中止)
会場|川定(京都府南丹市八木町八木鹿草49)


作品概要

身体0ベース運用法の安藤隆一郎は、1400年もの歴史がありながら途絶えてしまった「桂川(保津川/大堰川)の水運」にまつわる身体技術の継承のため、保津川下りの船頭に弟子入りしました。《0GYM−日本身体遺産 保津川下り編》は、先人たちが長い時間と多くの労力をかけて育んできた、しかしながら現代の生活からは姿を消してしまった川の文化や身体性を、アーティストが自身の身体を介して吸収・解釈し、それを再び現代人の身体へと結びつけるために、極めて現代的な空間「トレーニングジム」として再構築した作品です。

    解説|宮下忠也(地域アートマネージャー・南丹担当)

日本人が暮らしの中で培ってきた「身体」を見つめなおし、現代生活への応用を行う身体0ベース運用法は『京都: Re-Search 2018 in 亀岡』をきっかけに保津川下りに出会いました。 この川下りは京都に都が造営される以前、長岡京市に都があった頃から行なわれ、丹波高地東縁に発する大堰川から亀岡盆地以南の保津川を下り、嵐山までを舞台とした物資の輸送路でした。古くは筏に始まり、木造の高瀬舟や現在のFRP船へと続いています。私はこの物流する身体に魅せられてこの文化における身体についてリサーチをしました。
《0GYM−日本身体遺産 保津川下り編》は、現在の保津川下りの船頭の操船技術「櫂引き」「竿さし」「舵」のうち「櫂引き」をテーマにした作品です。この作品の制作にあたり、私は保津川下り(保津川遊船企業組合)に弟子入りし、1年半ほどの期間をかけて櫂引きを鍛錬し、身体を通してこの文化を理解しました。展示作品《0具− 保津川下り櫂トレマシーン》は、私が櫂引きを陸上で練習するために使用してきたもので、保津川下りの風景や船頭の映像を見ながら櫂引きの身体技法を学ぶことのできるトレーニングマシーンです。

0具−保津川下り櫂トレマシーン|2019-21年/保津遊船の廃材、櫂、棕櫚縄、カーブミラーなど

櫂引きを理解していくと、この運動が2つの円と1つの支点によって機能していると俯瞰して見ることができます。この「円と支点の運動方程式」は、様々な形で私たちの日常生活のなかで用いられています。《0具−胡麻ゴーリゴーリ》は、ギーコ、ギーコ、と櫂を引くように胡麻擦りを行うことで、櫂引きについて理解するトレーニングマシーンです。

0図-櫂の運動方程式その一|2021年/和紙、顔料、櫂の支点部分で作った判子など

0具-胡麻ゴーリゴーリ|2021年/すり鉢、すりこぎ棒、櫂、鉄パイプ、トタンなど

大堰川、保津川を舞台とした川の文化の多くが、私たちの生活から姿を消してしまいました。身体0ベース運用法は、たくさんの人々が長い時間をかけて育んできたその文化を、身体を用いて理解し、現代へと結びつけます。本展では、川定の商店空間を身体を動かし理解するためのトレーニングジム《0GYM(ゼロジム)》にしました。作品に触れ、身体を動かすことで、八木を流れる大堰川について見つめ直してもらえたらと思います。

    −身体0ベース運用法 安藤隆一郎

 

 

未開地のアフォーダンス(Nantan Remix Ver.)

アーティスト|Yukawa-Nakayasu
『京都:Re-Search 2019 in 和束』、『大京都 2020 in 和束−未開へのわだち』ゲストアーティスト
会場|オーエヤマ・アートサイト(京都府南丹市八木町八木鹿草71「八木酒造」内)

 

作品概要
《未開地のアフォーダンス》(2020)は、アーティストのYukawa-Nakayasuが京都府のアーティスト・イン・レジデンス事業展覧会『大京都 2020 in 和束−未開へのわだち』のために、京都府相楽郡和束町にて滞在制作された作品です。茶畑に囲まれた、風光明媚な和束の地に内在する「自然−人工物の境界」に焦点をあて、「未開墾地の開拓」、「山岳信仰とその修行場」、「自然災害と防災」の歴史とそれにまつわる人々の営みを土台に制作されました。
今回展示されたのは、その作品に新たに南丹地域の物語(南譚)を編み加えた《未開地のアフォーダンス(Nantan Remix Ver.)》(2022)です。和束町で作られ、発表された作品を南丹市八木町で展示するにあたり、Yukawa-Nakayasuは八木という場所と深く結びついている「水」に注目しました。そして、「自然−人工物を循環する水」という切り口から、作品の再構築を試みています。

    解説|宮下忠也( 京都府地域アートマネージャー)

 

未開地のアフォーダンス(Nantan Remix Ver.)(部分)|井戸水、米、五円

雨として降りそそぎ、大地に濾過され手元に届けられた水は、私たちの身体を満たし、身体から排泄された水分は、再び土地を循環し、他の生命に届けられている。
現在、万物の根底をなしている生命の水は、水資源の分配や管理にともなって、利権という色に染まっている。 この水の循環の淀みは、社会に軋轢を生むまえに、地球規模の生命のもつれを生み出すのではないだろうか。私にこの問いを投げかけてくれたのは、八木に湧出する井戸水であった。蛇口から溢れでる井戸水が排水される様子に、勿体なさを感じたことは、水道代金を支払っている私にとって不可避な感覚であったとともに、あらためて自分が社会システムに組み入れられている事を自認させてくれた。
水を浄化するインフラストラクチャーの恩恵を受け、汚水を流しながらも生きる私たち。 私たちが使用した水は、循環し私たちのもとへと舞い戻る。 私は、本展示空間を巡回する水を眺めることを通して、このような感覚を呼び覚ますとともに、生命の循環についてあらためて想いを馳せたいと思う。

    −Yukawa-Nakayasu

未開地のアフォーダンス(Nantan Remix Ver.)(部分)|
写真手前|井戸水、八木酒造の桶、銅板にアクリルとエッチング
写真奥|南丹浄化センターの浄化水/水槽の水草と微生物

未開地のアフォーダンス(Nantan Remix Ver.)(部分)|井戸水、ガラス

 


 

次回は、南丹市民の皆さんと、南丹市の姉妹都市フィリピン・マニラ市のアーティストLoad na Diteとともに行った「タウンミーティング」の様子をレポートします。ミーティングのテーマは【国際芸術祭『南丹アートフェスティバル2023(架空)』】。どんなアイデアが飛び出したのでしょうか。

 

【レポート】Nantan Remix 2022|タウンミーティングにつづく

 


 

アートイベント【Nantan Remix 2022】概要

会期|2022年10月10日(月・祝)〜10月23日(日)
   ※金・土・日・月のみ実施
会場|ちびねこ映写館/川定/
   オーエヤマ・アートサイト(八木酒造)/
   南丹市八木市民センター 文化ホール
参加アーティスト|荒木悠/身体0ベース運用法/Yukawa-Nakayasu/Load na Dito
入場|すべて入場無料
主催|京都:Re-Search実行委員会(京都府、他)
後援|南丹市
助成|令和4年度 文化庁文化芸術創造拠点形成事業

▶︎アーティストプロフィール、イベント概要等はこちら
【Nanatan Remix 2022】

 

(記事執筆:宮下忠也(京都府地域アートマネージャー・南丹地域担当)