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[アーカイブ] 地域における文化・芸術を考える2日間|研修

南丹地域|南丹市

本記事は、2020年11月17日(火)・18日(水)に行われた、地域プログラム『地域における文化・芸術を考える2日間』をレポートした、WEBサイト【京都府地域文化創造促進事業】のアーカイブ記事です。

研修『地域における文化・芸術を考える2日間』

京都府では、府域における文化活動の振興を図るため、丹後、中丹、南丹、山城の4地域で文化・芸術活動を担う、もしくはこれから担っていくであろう人材を育成するための研修プログラムを実施しています。その一環として、南丹地域で『地域における文化・芸術を考える2日間』と題した講座やワークショップを行いました。

日時|2020年11月17日・18日
場所|南丹市八木市民センター文化ホール 子育て支援ルーム
主催|京都府
協力|京都:Re-Search実行委員会
助成|一般社団法人 地域創造「地域の文化・芸術活動助成事業」

◾️ 講座1『地域のコミュニケーションをデザインする』
日時|2020年11月17日(火)13:30~15:00
場所|南丹市八木市民センター文化ホール
講師|紫牟田伸子(編集家、プロジェクトエディター、デザインディレクター)

◾️ 講座2『民俗芸能とパフォーミングアーツ:朽木古屋の六斎念仏継承プロジェクト』
日時|2020年11月17日(火)15:15~16:30
場所|南丹市八木市民センター文化ホール
講師|武田力(演出家、民俗芸能アーカイバー)

◾️ ワークショップ『現代に民俗芸能を継承する』
日時|2020年11月18日(水)13:00-14:30
場所|南丹市八木市民センター子育て支援ルーム
講師|武田力

◾️振り返りディスカッション『地域に根ざした文化・芸術活動の可能性』
日時|2020年11月18日(水)15:00-16:30
場所|南丹市八木市民センター文化ホール
登壇者|紫牟田伸子、武田力 
進行|宮下忠也(京都府地域アートマネージャー・南丹地域担当)

 

1日目

講座1『地域のコミュニケーションをデザインする』

本研修プログラムのキックオフ・レクチャーとして、編集家でプロジェクトエディター、デザインディレクターの紫牟田伸子さんに、アートやデザインの視点を用いたまちづくりの先進的な事例の紹介と、その背景にある「シビックプライド」という考え方についてお話しいただきました。

▼内容要約
これまで様々な地域の特産物の商品化やブランディングに携わってきましたが、次第に「地域活性化」イコール「地域経済の活性化」なのか?と疑問を抱くようになりました。むしろ重要なのは、地域の文化をつくることではないのか。そんなことを考えている時に「シビックプライド(Civic Pride)」という言葉と出会い、それがこの10年の私のテーマとなっています。
 シビックプライドは、直訳すると「(まちに対する)市民の誇り」。日本語の郷土愛に似た言葉ですが、愛着だけではなく、市民個人が地域に積極的に関わろうとする「自負」の感情が含まれています。

2000年代、ヨーロッパではまちづくりが盛んになりました。EUの発足により、国単位より都市単位の取り組みが重要になったからです。その頃のキャンペーンのひとつにオランダ・アムステルダムにおける《I amsterdam》というものがありました。移民や性的マイノリティー、旅行者など多様な「私」が「アムステルダムを構成している」というメッセージで、自分たちがまちを作っているのと同様に、まちが私たちを作っているという相互の関係に立った秀逸な取り組みでした。

シビックプライドとは、つまるところ個人の心の中に作られる、自分とまちの関係性のことです。個人の心の問題なので、強く持っている人もいれば持っていない人もいます。しかし、まちと人の関係が強まれば、まちの雰囲気が変わり、まちの魅力は高まります。つまり、私たちがまちを変えることができるのです。イギリス・バーミンガムのまち美化キャンペーンでは、《you are your city(あなた自身がまちなのです)》というスローガンが採用されていました。この言葉が、シビックプライドというものを端的に表しているのではないでしょうか。

シビックプライドを醸成していくために、アートは有効です。アートによってそのまちが自由であることを人々に感じさせたり、まちに新しい物語を重ね、それを多くの人と共有したりできるからです。芸術表現によって、まちの文化が形成されていくのです。

紫牟田伸子(しむたのぶこ)| 編集家/プロジェクトエディター/デザインディレクター 個人事務所SJ主宰、株式会社Future Research Institute代表取締役社長。 美術出版社、日本デザインセンターを経て、2011年個人事務所SJ開設。2018年株式会社Future Research Institute設立。「ものごとの編集」を軸に、商品企画、コミュニケーション戦略、ブランディング、プロデュースなどに携わる。また、デザインとアートのウォッチャー/ライターとして、講演や雑誌などへの寄稿を行う。 主な著書に、『シビックプライド』『シビックプライド2』(共同監修/宣伝会議/2008, 2015)、『日本のシビックエコノミー』(編著/フィルムアート社/2016)など。

 

講座2『民俗芸能とパフォーミングアーツ:朽木古屋の六斎念仏継承プロジェクト』

この南丹地域では、「出雲風流花踊り」、「丹波音頭」、「カッコスリ」、「カラス田楽」、そして、「六斎念仏」など多くの民俗芸能が継承されています。しかし、生活様式や信仰のあり方が大きく変わる中で、従来の形のまま次の世代へと伝えていくことが困難になってきました。これは南丹だけではなく、日本全国の民俗芸能が共通して抱える問題です。

そこで現代の、そして未来の民俗芸能のあり方や継承について、滋賀県高島市の限界集落、朽木古屋で途絶した六斎念仏踊りを復活させ、継承させていくプロジェクトに演出家として参加されている武田さんに、その経験やそこから得た知見についてお話しいただきました。

▼内容要約
私はもともと俳優で、主に海外で活動していましたが、3.11(東日本大震災)を機に帰国しました。それからは、演出家として日本やアジアの民俗芸能をリサーチしながら、その構造を用いた演劇的な作品を作っています。そのひとつに《踊念仏》という作品があり、念仏つながりで朽木古屋の六斎念仏復活継承プロジェクトに参加しました。

朽木古屋の六斎念仏は、2013年の夏を最後に途絶していました。この地区は昔は鯖街道で賑わい、六斎念仏も鯖街道を通じて伝わったとされます。昭和20年代には120人ほどの住人がいたようですが、今はたった5世帯ほどの限界集落です。その中で六斎念仏踊りができるのは、80~95歳の5人の方だけでした。

朽木古屋の六斎は、太鼓を体の上の方まで振り上げなくてはなりません。肩や腕の力だけでは難しく、全身を使わなければうまく踊れません。この振りは、想像するに集落の生業であった林業や稲作の動きから来ているのではないでしょうか。私は、民俗芸能はその土地の身体によるアーカイヴだと考えます。その土地で生きていくために必要な身体性を後世に伝えるための振りなのです。

私たちアーティストが参加し、古屋の六斎念仏を復活させることはできました。しかし、それを継承していくことはさらに難しい。これまでそこに住んでいる人たちで継承してきたものを、アートという要素を入れながら外部の人間で継承している。芸能としてフォームだけ残すことに価値はあるのでしょうか?芸能の根っこには、たくさんの生活のありようがあります。フォーム(型)とボディ(そこに込められた精神)をどう両立させることができるかが重要です。

ポイントとなるのは、アートをうまく使いながら「価値化」していくことです。アートによって朽木古屋の六斎には人が集まってきています。しかし、地域の中にそれをコーディネートできる人がいません。僕もせっかく復活させたものを、このまま途絶えさせたくないので、これからもアーティストとして関わりながら継承について考えていきたいと思います。

武田力(たけだりき)| 演出家、民俗芸能アーカイバー 俳優として欧米を中心に活動後、演出家に。過疎化の進む滋賀県朽木古屋集落の六斎念仏の復活/継承や、作業唄として古くより伝わるが、作業の機械化により日常に唄われなくなった八女茶山唄の継承に関わる。「ソトモノ」として民俗芸能の現代的価値を見出し、アートを用いてどう後世へと繋げるかを現地と協働しながら展開している。 また、近年ではフィリピン・Karnabal、中国・上海明当代美術館の招聘を受け作品を制作。横浜市芸術文化振興財団2016/2017年度クリエイティブ・チルドレン・フェロー、2019年度国際交流基金アジアセンターフェローにそれぞれ選定された。

 

2日目

ワークショップ『現代に民俗芸能を伝承する』

2日目には、武田さんによる民俗芸能の継承をテーマにしたワークショップを実施しました。まず参加者を7つのグループ(第1世代〜第7世代)に分け、武田さんと第1世代以外は室外で待機することに。第1世代は、武田さんからオリジナルの民俗芸能を習い、次いで入室してきた第2世代へと伝えます。さらに第2世代が第3世代へと伝える。役目を終えた第1世代は「先祖の霊」としてその様子を眺める。これを繰り返し、第7世代まで継承させていきました。

7世代というと、ひと世代を25年と換算したならば175年間に相当します。その年月の中で、振りが変化したり、振りに込められていた意味が失われたり、新たな意味が加わったり。体を動かし伝えていくことで、そんな変容が民俗芸能の継承プロセスの中で実際に起きていると容易に想像することができました。

ワークショップに参加した方たちは、異なる身体や感覚を持つもの同士でフォーム(型)を正確に伝えていく難しさを感じながらも、フォームが多少変化したとしてもそれが必ずしも「間違い」にはならない民俗芸能のおおらかさに触れ、継承するとはどういうことなのか感じることができたのではないでしょうか。

 

振り返りディスカッション『地域に根ざした文化・芸術活動の可能性』

振り返りディスカッションでは、初日の2つの講座と2日目のワークショップを振り返りながら、地域に根ざした文化・芸術活動の可能性について意見交換しました。

まず冒頭に、終えたばかりのワークショップについて各参加者から感想をいただきました。それをきっかけに、個人の身体をいかにして民俗芸能特有の集団としての身体へと落とし込んでいくのか、民俗芸能をアート(身体表現)として習得するときに失われてしまう精神性をアーティストがどのようにして継承することができるのか、などのことが議論されました。

また、地域にアーティストが入っていく際に重要なコーディネーターの役割についてや、アーティストや研究者による地域文化の搾取の問題、アーティストやデザイナーが魅力的だと感じる地域の条件、外部者であるアーティストやデザイナーと良い関係を築くにはなど、登壇者自身が経験してきた事例を参照し、様々な意見交換が行われました。

 

(記事執筆:宮下忠也(京都府地域アートマネージャー・南丹地域担当))