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【事業レポート】遠回りの仕方-準備編-|レクチャー

中丹地域|舞鶴市

 

2024年1月13日(土)~2月3日(土)に実施した中丹地域プログラム『遠回りの仕方−準備編』では、アートプロジェクトを担う〈人材育成プログラム〉、〈レクチャー〉を開催しました。

今回の事業レポートでは、フリーランスアートマネージャー/アートコーディネーターの寺島さんと、舞鶴市の私設文化交流会館「いさざ会館」の用務員である浦岡さんにご登壇いただいた、1月21日(日)に実施したレクチャー 「アートプロジェクトの実践方法」の様子をお届けします。

 

2023年度地域プログラム(中丹)
遠回りの仕方-準備編-|レクチャー

▼目次
●遠回りの仕方-準備編-|レクチャー|概要
パート1|アートプロジェクト実施の準備
パート2|地域アート活動をすることとは-いさざ会館の取り組み-
まとめ|地域アートマネージャーからのレビュー
遠回りの仕方-準備編-|全体概要

記|京都府文化芸術課、西尾晶子(京都府地域アートマネージャー・山城地域担当)
写真撮影|大西紗生(HOSHITSU PHOTO)
記事編集|大賀由佳子(京都府文化芸術課・専門人材)

 

遠回りの仕方-準備編-|レクチャー|概要

地域でアートプロジェクトをやってみたいけど、どこから、なにをしたらいいのかわからない。地域でアート活動をするってどういうこと? 様々な疑問について、講師陣によるレクチャーを通じて、アートプロジェクト実践の方法について学ぶ時間となりました。


日時|1月21日(日) 14:00~17:00
会場|舞鶴赤れんがパーク2号棟舞鶴市政記念館
参加|無料

[内容・講師]
パート1|レクチャー「アートプロジェクト実施の準備」
講  師|寺島千絵(フリーランスアートマネージャー/アートコーディネーター)
パート2|レクチャー「地域の中でアート活動をすることとは」
講  師|浦岡雄介(いさざ会館用務員) 

 

パート1|アートプロジェクト実施の準備

講師 | 寺島千絵
フリーランスアートマネージャー/アートコーディネーター。愛知県生まれ。東京都内の美術館、コマーシャルギャラリー、レジデンス施設を経て、2012年 よりフリーランス。主な経歴に『あいちトリエンナーレ』(2013、2016)、『京都:Re-Search 2017 in 福知山』、『大京都 2017 in 舞鶴』、『東京ビエンナー レ2020/2021』等の芸術祭で、教育普及の観点から市民参加型プログラムや人材育成プログラムの企画のほか、まちに関わり制作するアーティストのコーディネートを行ってきた。2023年2月に京丹後市へ移住。現在、兼業可能なふるさと創生職員として京丹後市教育委員会事務局 生涯学習課で文化振興を担当。

フリーランスアートマネージャー/アートコーディネーターの寺島さんからは、プロジェクトを進めていく工程の大きな枠組みとして、「たちあげる」→「うごかす」→「のこす」という大きな3つのステップがあり、事前に準備することやそれぞれの工程で大切にしている心構えについて、ご自身が関わられた事例を踏まえた紹介がありました。その中で、本プログラム『遠回りの仕方-準備編』で行っている「たちあげる」工程とはプロジェクトの要であるという話がありました。「たちあげる」の要素には「想い(なぜそれをやるのか?)/座組(誰とそれをやるのか?)/タイミング(いつそれをやるのか?)」があるとのこと。そして、プロジェクト実施の経験値が浅くても、お金や場所がなくても、この3つがしっかりしていればカバーできることがたくさんある、と地域で行う活動への学びにつながりました。特に「想い」は、コンセプトづくり、資金調達、プロジェクトチームとの情報共有、プロジェクトが何だったのかという振り返りまで続く行為となり、想いを共有するための「対話」は、 プロジェクトを「うごかす」→「のこす」までの動力になるとも語られました。 

 

パート2|地域アート活動をすることとは-いさざ会館の取り組み-

登壇者 | 浦岡雄介
いさざ会館用務員/アートマネージャー。2015 年文化交流施設「いさざ会館」を開設。同館を用務員として住み込みで運営。造形教室やアー ト・福祉に関わるワークショップ、またライブ、お祭り、中高年向けサロンの企画・運営、レンタルスペースを行い地域に関わる活動を行っている。

舞鶴市の私設文化交流会館「いさざ会館」の用務員である浦岡さんからは、いさざ会館の成り立ち、活動事例、活動をする理由や役割、活動する上で大事にしていることが紹介されました。地域のアーティストと行ったプロジェクト事例では、町に新しいものの見方を提案したり、もともとあったものが面白くなる瞬間があるのがアートプロジェクトを行う1つの意味であるとの話が。また、いさざ会館では、特別なものに感じる「アート」という言葉を使わずに、「表現活動」という言葉を用いてアーティストを発掘し、発信しているという言語化の話も。そして、プロジェクトの動力となるコンセプトや目的は、地域にあるものを活かして紹介することであり、浦岡氏が率先して、舞鶴を面白がることで、違う見え方が地域の人にもだんだん伝わり、面白がってくれ、そういう人が増えてくると、町の見方が変わり、日常が面白いものになるのではないかというアートプロジェクトが「起こす」景色が共有されました。 

 

まとめ|地域アートマネージャーからのレビュー

記|西尾晶子(京都府地域アートマネージャー・山城地域担当)

 

アートプロジェクトの企画者には、全体を俯瞰する力や人をまとめる力、思い通りに進まない時の発想の転換など、総合的な仕事力や人間力が求められるが、そのアートプロジェクトにしなやかに向き合い、地域の記憶を紡いでいるのが、本レクチャーに登壇した2人のアートマネージャーである。

名古屋市・長者町のプロジェクトに携わった寺島さんは、豊富な現場経験者ならではの説得力を持って、アートプロジェクトの成り立ちや各プロセスの必要性などを語った。特に印象に残ったのは、プロジェクトの様々な局面で、寺島さんが独自の工夫を実践していたこと。例えば、同じ内容でも、情報を伝えたい相手によってチラシのデザインや文章のテイストを柔軟に変えたり、プロジェクト進行中の出来事を写真や文字で常に記録したりなど、一つ一つは小さなことである。だが、このような細やかな工夫が施されることで、プロジェクトの細部に血が通い、様々な課題が即興的かつクリエイティブに解決され、その結果プロジェクトの精度が上がるのではないか。そう考えると、寺島さんが示してくれた最も大事なことは、現場での経験に基づいた自分なりの工夫の仕方を見つけ、アートプロジェクトを成功に導くための独自のスタイルを築いていくことなのかもしれない。

西舞鶴で文化交流施設・いさざ会館を運営する浦岡さんは、舞鶴のアーティストたちと開催した「第一回西舞鶴国際アートフェスティバル」の運営を1人で担ったことについて、「なんかできちゃったけど、アートフェスを“1人でやってはダメ”という教訓を得た」と振り返った。しかし、その経験を経て浦岡さんが辿り着いた、地域でアートに取組む際の“力加減”が素晴らしい。いさざ会館の活動を通して“真面目にふざける”ことで地域の人たちが関わりやすい空気感を出し、その空気に惹かれて、表現活動をしたい地域の面白い人たちが自然と集まるというサイクルが生まれている。浦岡さんは、アートプロジェクトの役割の1つとして、「企画者自身が地域を面白がることで、地域に対する新たな視点を地域の人たちの中に広げていくこと」と述べているが、いさざ会館でなら、そのようなアートプロジェクトの目的がじわじわと果たされていくのかもしれない。

2人のアートマネージャーによる実践をヒントに、様々な場所で面白いアートプロジェクトが営まれる日が楽しみである。と同時に、アートマネージャーとして地域に向き合う自分自身にとっても、日々の業務を振り返る貴重な機会であったことに感謝したい。 

 

遠回りの仕方-準備編-|全体概要

[共通]
参加|無料
参加者数|計48名
講師|
・寺島千絵(フリーランスアートマネージャー/アートコーディネーター)
・浦岡雄介(アートマネージャー/いさざ会館用務員)
・新井厚子(アーティスト)
・重本晋平(アーティスト)
主催|京都:Re-Search 実行委員会(京都府、舞鶴市 ほか)

[連続プログラム]
開催日|2024年1月13日(土)、1月21日(日)、1月27日(土)、2月3日(土)
時間|各日10:00~16:00
会場|舞鶴市中公民館(中総合会館内)
定員|15名

[レクチャー「アートプロジェクトの実践方法」]
日時|1月21日(日)14:00~17:00
会場|舞鶴赤れんがパーク2号棟舞鶴市政記念館 定員 | 50名

連続プログラムの様子等のレポートは▼こちら
2023年度事業報告書(PDF)