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[アーカイブ]Somaさん|クリエイターズファイル

山城地域|城陽市

本記事は、2021年度にWEBサイト【京都府地域文化創造促進事業】内「クリエイターズファイル」に掲載したアーカイブ記事です。

2度目となる個展で最新の作品と共に。穏やかで落ち着いた雰囲気の中学3年生、Soma(土田颯眞)さん。

宇治橋通商店街は、宇治川がすぐ近くを流れ、平等院や源氏物語ミュージアムなどに隣接した歴史文化の香りが漂う商店街です。ここ数年、地域再生の取り組みが地元住民を中心に活発に行われ、飲食や工芸・雑貨など様々な魅力を発信する店舗が集まり、観光客や地元住民の憩いの場として親しまれています。

この宇治橋通商店街にある“中宇治yorin”という複合施設に“yoriai”というイベントスペースがあり、この場所で2度目となる個展を開いたのが、中学3年生*の画家・Soma(土田颯眞)さんです。木の温もりと柔らかな日差しが心地よい一室にSomaさんの作品がずらりと展示されていました。

*2021年10月10日取材当時

宇治橋通商店街にある中宇治yorinの一室が、Somaさんの世界感に見事に染まっていました。

個展のタイトルは「Somaる展」。彼自身がアートに“染まり”自己を確立してきたこと、自分が生み出したアートにも“染まって”もらいたい、そこに自身の名前である「そうま」の英語表記“Soma”を掛け合わせて「Somaる展」というタイトルが付けられました。

中学3年生というと、大人の入り口の少し手前にいる多感な世代。現代を生きる中学3年生はどんな人物なのだろう、スマホやSNSなどの情報ツールを使いこなすデジタルネイティブなのか、想像を膨らませながらギャラリーを訪れると、大人びた雰囲気の少年が礼儀正しく迎えてくれました。

Somaさんが、独自の方法で絵を描き始めたのは小学校5年生の時。「(それまでも絵を描くことはありましたが)形があるものを描きたくない、という気持ちが不意にポンっと出てきて、じゃあ何か描いてみようと思って描いたら意外に上手くいったので驚きました」と、初めて“作品”を描いた時のことを振り返ってくれました。自分をうまく表現することが難しく、人との関わりに悩んでいたという当時のSomaさんが、何も考えず絵を描くことに没頭し、絵を通じて感情表現ができることを知った瞬間でした。「自分を表現するものを見つけたかったので、絵という拠り所を見つけられたのが大きく、徐々に自信を持って人と関われるようになってきました」

絵を描くことに夢中になり始めた頃のSomaさん。(写真提供:Somaさんご家族)

Somaさんにとって思い入れの深い、ろうそくと顔の絵。絵の細部に込められた思いを丁寧に語ってくれました。

「よくこれは誰なの? って聞かれるんですが、僕としては誰とは言いたくはなくて、周りに明るい笑顔を振りまく人物をモチーフにしています。周囲からは“八方美人”という受け取り方もされてしまう人物で、八方美人と言われていることに自身が気づいてしまった。一人一人丁寧に対応したいという気持ちで、八方美人と言われていることを自覚しながらも普通に人と接してきたけれど、接していくうちにだんだん傷が深まっていきます。同時に描かれた一本のろうそくは、この人物が儚(はかな)いろうそくの灯りに頼り、目の前の小さな灯りに頼るしかない自分にも気づいているという、複雑な心境を持った人物を描いた作品です」

2021年夏に制作されたこの作品はSomaさんが即興的に描いたものですが、その時のSomaさんの内に湧き上がった“一番伝えたいこと”が伝えられたという実感が持てた、Somaさんにとっては思い入れのある作品だそうです。

複雑な心境を持つ人物

絵のモチーフになるものは、普段の生活の中で目にするものも多く、学校の行き帰りの道で出会う雑草や花、竹林の竹などに魅力を感じて見入るときがあるそうです。

一番最近描いた作品(個展開催当時)は、不気味な美しさを放つ“月”にインスピレーションを得たもの。木目のキャンバスに描かれた作品は、人の心に直接訴えかけるような力強さや繊細さを持ち、黒を基調とした落ち着いた色調、そして黒と余白のコントラストはこのギャラリーの中でも特に洗練された印象を放っていました。

画材を買って家に帰り、車から降りた時に見た“月”にインスピレーションを得て描き始めた作品。

次への展望を聞くと、「明確にあるわけではないですが、状況が整えば次の個展をまたやりたいです。何回もやることが大事だとは思っていなくて、一回一回を大切にしながらやりたいです」とのこと。

長期的な展望としては、宇治に自分のアトリエを持ちたいそうです。

「アトリエというのか、表現できる空間が欲しいと思っています。(この個展を開催するにあたり)お金がかかったり、色々な人の助けが重要なのだと気が付きました。自分の一番の希望を叶えるために、高校に入ってからも頑張ってアルバイトなりでお金を貯めてアトリエを持てたらなと。特に宇治は、歴史的な場所もあれば自然もあって、僕は自然が大好きなので、街と自然のバランスがすごくいいなと思っています」

目の前の「今」を大切に、創作活動を続けたいと語るSomaさん。

この取材を終えた後、2021年11月5日に彼が住む城陽市から文化芸術奨励賞を受け、SomaさんもSomaさんのご家族も心から喜んでおられました。関西はもちろん全国で数々の美術関連の賞を受け、NHKなどのマスコミにも取り上げられてその才能を認められたSomaさん。自分自身と常に真摯に向き合い、今しか残せない作品の制作に意欲的なSomaさんだからこそ、大きな賞をもらっても謙虚な物腰でとても自然です。

「どれだけ賞を重ねても、一人一人の人を大切にしたいという思いがあって、簡単に言えば天狗になりたくないと思っています。受賞したときはもちろん嬉しいけれど、目の前にある一つ一つの喜びを自分の中に見つけていきたいです」

丁寧に喜びを積み上げたSomaさんが一つ一つ大切に生み出していく作品を、これからも楽しみに待ちたいと思います。

 

取材日|2021年10月10日
取材・文責|西尾晶子(京都府地域アートマネージャー・山城地域担当)
写真撮影|佐々木香輔


 

Soma 土田颯眞
京都府城陽市出身。世界児童画展や全国児童画展コンクール、全国教育美術展など数々の展覧会で受賞。中学1年生の時に10×15の世界コンテスト展入選、2020・ZERO展で兵庫県教育委員会委員長賞受賞、2年生で全国教育美術展特選、読書感想画京都府コンクール優良賞、同中央コンクール奨励賞受賞、2021・ZERO展で大阪市教育委員会委員長賞受賞。またNHKなどのメディアでもSomaとしての創作活動を紹介されるほか、衣類のデザインを手がけるなど活動の場を拡げている。2021年10月には2度目となる個展「Somaる」展を成功させる。

 

 

(記事執筆:西尾晶子(京都府地域アートマネージャー・山城地域担当))