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[ヒトを深める] ステンドグラス作家のJAHPON LAND/PUCCI・SIPPOさん

南丹地域|京丹波町
SIPPOさん(左)、PUCCIさん(右)

京丹波町にあるステンドグラスのパラダイス、JAHPON LAND(ジャーポンランド)。ここには、ステンドグラス作家のPUCCI(プチ)さんとSIPPO(シッポ)さんの工房と、大小様々な作品が並べられたギャラリー1、レトロな車のあるギャラリー2、奇妙なオブジェの置かれた庭などがあります。

JAHPON LANDは日々成長しており、現状はだいたい5割くらいの完成度なのだとか。昨年、新たに住居を構えた関係で、それまで暮らしていた建物をギャラリー1に、そしてギャラリーだった場所をギャラリー2へと改修しているところです。

ギャラリー1の入り口に置かれた、ボディにステンドグラスで「444」と描かれたスクーター。 JAHPON LAND前の府道444号線をモチーフにしています。

ギャラリー1の壁には、非常に大きく立体的でカラフルなステンドグラス作品が。 《熊の子太郎》(2006年)

たくさんのステンドグラスの他にも、レトロな遊具をアレンジしたオブジェや続き柄になっている珍しいスケートボード板なども展示されています。

JAHPON LANDの主であるPUCCIさんは、静岡県出身。武蔵野美術大学の空間演出デザイン学科に進学し、骨や角とプラスチック遊具を組み合わせたキッチュなオブジェなどを制作していました。遺跡から稀に発掘されるオーパーツのような、レトロだけど新しい、時代を超越した作品を作りたい。実家がステンドグラス製造、施工業を営んでいたこともあり、古代メソポタミアを起源とする長い歴史があり、劣化しにくいガラスを素材に用いるようになります。

プチ族シリーズ《牛骨三輪車&マンモスロッダー》(1995年) 写真提供:土屋隆亮

《Mr. SHERMAN》(2005年) 写真提供:土屋隆亮

現代的でポップなモチーフやストリートカルチャーの要素を扱いながらもレトロ感のある作風に、ガラスという素材はぴったりとはまりました。PUCCIさんの作品は、2006年の『GEISAI#9』で銀賞を受賞するなどアートシーンで注目されるようになります。

そんな東京での精力的な活動を通じて、現代美術のキュレーターやギャラリスト、アートバイヤー、イベントプロデューサーたちと知り合い、様々なイベントから出品の依頼が来るようになりました。しかし、一見華やかな業界の価値観と自身の作品へのこだわりや制作にかかる労力との間に、次第にギャップを感じるようにもなりました。

そんな時、あるキュレーターから「あなたの作品は、輸送コストや輸送中の破損のリスクが高いから扱えない」といったことを言われました。世界的に著名なキュレーターですら、作品の良し悪しよりも運送コストなどビジネス面を第一に考えているのか…。これまで抱いていたアート業界への憧れが一気に冷めていきました。   

華やかなイベントに、大きくてインパクトのある作品を出展すると「これガラス? すげー!」と、オーディエンスたちから大きな反応を得ることができます。でもほとんどの場合、そこで終わってしまっていました。でもステンドグラスの魅力とは、日常の生活の中で、刻々と変わる光でじっくりと眺めるところにあります。そのためには、常設で観てもらうのがいい。

もう作品を持ち運ぶのはやめよう。

世界に出ていくのではなく、世界から観にきてもらうこと。それがPUCCIさんの新たな目標になりました。そしてその拠点とするべく、インターネット不動産を検索して京丹波町の物件を購入します。購入の決め手となったのは、傾斜地に3段に連なっている特殊な敷地の構造と、最上段にある3本の大きな木。3つの敷地を階段でつないだり、木の上にツリーハウスを作ったりしてみたい。物件の写真を見て、子どもの頃の秘密基地作りのようなワクワクを感じたそうです。

こうして2008年、PUCCIさんはそれまで縁もゆかりもなかった京丹波町に移住し、JAHPON LANDの建設を開始します。木材のほか、コンクリート工場から譲り受けた強度検査のためのサンプルブロックなどを用いて、自分の手で建物を改造していきました。2010年には、静岡の実家の工房にステンドグラスの修行に来ていたSIPPOさんと結婚。以降は、共同で創作活動を展開しています。

キノコのような外観のギャラリー2。 時間の経過とともに屋根がいい感じに苔むしてきています。

ギャラリー2に置かれたトラック。 スケートボードのパーツやステンドグラスで装飾された非常に凝った作りで、軽量化のための屋根の幌張りまで自分たちで行ったという労作です。 ステンドグラス製品の展示販売車として活躍していましたが、エンジンブローのため現役を引退しました。

なぜ、他のどこでもなく京丹波町だったのか? そんな素朴な疑問を投げかけたところ「もともと何もないところ、観光地ではない場所に、ポツンと秘宝館のようなものを作りたかったんです。」という答えが返ってきました。高尚なアートではなくもっと俗っぽい、子どもやおばあちゃんも楽しめる場所を作りたい。完成度は高いけれど、どこかずっこけているような感じ。音楽で言ったらパンクのような、資本主義に反抗するみたいなノリでいたい。それに最も適した場所が京丹波町だったのです。それは、かつて憧れた東京への反発でもありました。

今後は、作品をどんどん増やしていくのではなく、すでにある作品をしっかりと収蔵していくこと、そしてのんびり鑑賞してもらうことのできる環境を整えることを第一にしていきたい。庭の木の上にツリーハウスを建てるなど、まだまだやりたいことはたくさんあるそうですが、あまり風呂敷を広げすぎないように気をつけているとか。

子どもの頃から『探偵! ナイトスクープ』の「パラダイス」*が大好きだったPUCCIさんは、JAHPON LANDがある程度の完成度に至った暁には、ぜひ出演してみたいと話していました。これからも、ひとつひとつのクオリティは高く、けれどどこかずっこけた感じのままJAHPON LANDは熟成されていくことでしょう。

*『探偵!ナイトスクープ』は、ABCテレビが金曜日夜11時から放送しているバラエティ番組。関西の番組ですが静岡でもオンエアされているそうです。「パラダイス」はナイトスクープの定番企画で、あまり知られていないB級のアミューズメントスポットを調査、紹介するというコーナー。

庭の3本の大きな木のうちのひとつには、今はハンモックが吊るされていて、お子さんたちがお昼寝に使っているそうです。


JAHPON LANDPUCCISIPPO
PUCCI|土屋隆亮
ステンドグラス作家。JAHPON LAND代表。
1997年武蔵野美術大学大学院修了。1993年よりステンドグラス制作を始める。

SIPPO|土屋志保
ステンドグラス作家。
2002年嵯峨美術短期大学卒業。大学では彫刻を学び、2006年よりステンドグラス制作を始める。

 


取材日|2022年4月19日
取材・写真・文責|宮下忠也(京都府地域アートマネージャー・南丹地域担当)

 

 


 

 

 

(記事執筆:宮下忠也(京都府地域アートマネージャー・南丹地域担当))