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[事業レポート]Kaico-参加型アートプロジェクト【学ぶ編】

丹後地域|丹後地域全域

 

約1300年前から織物の里であり、国内最大の絹織物産地である丹後地域。自然が育んできた景色とともに、江戸時代に発祥した絹織物「丹後ちりめん」など、伝統産業の営みが育んできた建物や職人文化は、『300年を紡ぐ絹が織り成す丹後ちりめん回廊』として、日本遺産(※)に認定されています。

2023年度の丹後地域プログラムでは、その『丹後ちりめん回廊』を背景とし、地域の文化資源である「テキスタイル(織物・布や糸)」と「アート」を結びつける取組から、町を見つめなおす住民参加型のアートプロジェクトを展開しました。

まずは、2023年8月18日(金)に行った、学ぶ編「アートプロジェクトって何だろう?」の様子をお届けします。

※日本遺産(Japan Heritage)とは
文化庁が認定する、地域の歴史的魅力や特色を通じて日本の文化・伝統を語るストーリーのこと。地域に点在する遺産(文化財等)をストーリーをもとにパッケージ化し、発信することで、地域のブランド化やアイデンティティの再確認を促進するなど、地域活性化を図ることを目的として認定されています。

 

2023年度地域プログラム
Kaico-参加型アートプロジェクト【学ぶ編】レポート

▼目次

学ぶ編 「アートプロジェクトって何だろう?」概要
アートプロジェクトって何だろう?
自然体でズレていく
アートを通したまちづくり
地域のヒトやコトがつながるプロジェクト
登壇者プロフィール
Kaico-参加型アートプロジェクト 全体概要

記:上村裕香
編集:大賀由佳子(京都府文化芸術課・専門人材)/
   甲斐少夜子(京都府地域アートマネージャー・丹後地域担当)

 

学ぶ編「アートプロジェクトって何だろう?」概要

京都府最北部に位置する丹後地域では、丹後ちりめんを代表とするものづくりが盛んに行われてきました。「Kaico-参加型アートプロジェクト」は、その過程で端材となってしまった「布」や「糸」などのマテリアル(資源)に新たな価値づけを与え、新たな行為を生みだすことで町を見つめなおすアートプロジェクトです。

2023年8月18日(金)、宮津市鶴賀のクロスワークセンターMIYAZUで、そもそもアートプロジェクトとはなにかを考えるレクチャー&トークイベントが開催されました。

▼学ぶ編「アートプロジェクトって何だろう?」概要
日時|2023年8月18日(金)14:00~16:00
会場|クロスワークセンター MIYAZU(宮津市鶴賀2164-2)[MAP]
参加者数 | 計50名(会場29名、オンライン21名)

 

アートプロジェクトって何だろう?

第一部は美術家で、装いの行為とコミュニケーションの関係性に着目したプロジェクトを国内外で展開している西尾美也さんによるレクチャーが行われました。

西尾さんはまず、アートプロジェクトを近代美術と対比して「作り手と受け手の関係性を見直して、美術館という場所やそこでの評価に縛られず、制作していく過程にも価値があるもの」と説明。

日本におけるアートプロジェクトは、茨城県取手市で1999年より市民と取手市、東京芸術大学が共同で行なっている「取手アートプロジェクト」や、千葉県浦安市で2023年から市民とともに地域や社会の課題を解決するきっかけづくりとしてアートを実践している「浦安藝大」など、さまざまな時代・地域で展開されてきました。

美術家の西尾美也さん。実践編「町を縫う」ワークショップをイメージしたTシャツの装いでした。

 

自然体でズレていく

西尾さんは大阪・西成で行っているNISHINARI YOSHIOの服作りのワークショップを例に「ワークショップは、予定調和になってしまうこともあるんですが、たとえば西成のおばちゃんたちと服を分解して作り直すワークショップをやっていたら、『自然体でズレていく』んですよね。不良品を作ろうと趣旨を説明しているのに、すごく完成度の高いものを作ってくるとか、個人の得手不得手からコミュニケーションが生まれるとか。言葉ではなく、その場でのものづくりや体験を介して、予定調和じゃない新しい価値が交換される」と語りました。

また、「最近は、プロジェクトを主導する僕らも参加してくれる方も一緒になって表現することで、そのプロセス自体が学びの共有空間になっているということを感じます。その場で解決策を提案するのではなく、『わからなさ』に向き合ってみることが大事なんじゃないかと思います」と、西尾さんが参加された2023年の東京ビエンナーレなどを例に、地域の方々と継続的に向き合っていくアートの形を紹介しました。

参加者は丹後地域住民を中心に20代~多世代の方が参加。オンラインでは関東圏からの参加者もいらっしゃいました。

 

アートを通したまちづくり

第二部は西尾さんと、クロスワークセンターMIYAZUのコンテンツ・ディレクターである筒井章太さんによるクロストーク「アートプロジェクトとまちづくりの関係性」が行われました。

まずは、お二人のこれまでの経験を振り返り、地域の方々とプロジェクトを進めていくからこその新しい発見や、アートを通した継続的なコミュニティがあるからこそ生まれた地域の可能性について話されました。

筒井さんは「プロジェクトに参加した人にしか影響を与えられないという葛藤もあるとは思うんですけど、でも『十数人救えた』とも言えるんですよね。ぼくたちのようなプロジェクトを仕掛ける側がやるだけじゃなくて、自然とコミュニティやプロジェクトが生まれるような仕組みづくりが大事なのかな」とまちづくりの視点から考察。地域コミュニティ以外にサードプレイスとしてのアートプロジェクトがあることの重要性を強調しました。

第2部でのクロストーク登壇者の筒井章太さん。宮津市へ移住して2年目の新鮮な目線で地域がアートと関わることについて話されました。

 

地域のヒトやコトがつながるプロジェクト

今後展開されるワークショップについて、西尾さんは「丹後地域の生地を使えるということだけで贅沢だし、今回は日をまたいでリレー形式でつくっていくので、そこでもコミュニケーションが生まれるんじゃないかなと思います。今回のプロジェクトは、地域アートマネージャーの方が丹後地域に住み、日々生活しながら企画されている。これってすごいことだと思うんです。丹後ちりめんの布を使わせてもらおうとか、地域クリエイターの方々とワークショップをやろうとか、地域アートマネージャーの方が設計してくださったことで、地域のヒトやコトがつながれるプロジェクトになるんじゃないかと期待しています。そして、この展示が終わったあとも、そのつながりが残っていけば素晴らしいなと思います」と展望を語りました。

 

その後、質疑応答のときには、「わたしもアートプロジェクトを企画していたのですがうまくいかず、今日の『アートプロジェクトは予定調和で進んでいかない』という話に励まされました」といった感想がよせられました。

課題があることを問題視するのではなく、それを解決しようとするプロセスさえもアートプロジェクトとして捉え直す。まちづくりの施策とアートプロジェクトを結びつける。そういった、新たな視点からアートプロジェクトを考えるクロストークとなりました。

質疑応答では、ワークショップ参加予定者から、「これから始まるアートプロジェクトが楽しみでしかたない。」という、レクチャーへの感想の声もありました。

 

登壇者プロフィール

西尾 美也|にしお よしなり

1982年奈良県生まれ。美術家。文化庁新進芸術家海外研修員(ケニア共和国ナイロビ)、奈良県立大学地域創造学部准教授などを経て、現在、東京藝術大学美術学部先端芸術表現科准教授。装いの行為とコミュニケーションの関係性に着目したプロジェクトを国内外で展開。ファッションブランド「NISHINARI YOSHIO」を手がける。

WEB|http://yoshinarinishio.net/

 

筒井 章太|つつい しょうた

クロスワークセンターMIYAZU Contents Director / 宮津team。1995年生まれ。北海道滝川市出身。立命館大学人文学部を卒業後、通販メーカーを支援する広告代理店である株式会社ファインドスターに入社。新規開拓営業を経て、株式会社スタートアジアジャパンに出向。中国事業の立ち上げに従事し、20社以上の日本企業の中国進出を支援する。2022年3月FoundingBaseへ入社。京都府宮津市における「クロスワークセンターMIYAZU」を中心とした関係人口創出事業の立ち上げに携わる。

 

 

2023年度地域プログラム(丹後)
『Kaico-参加型アートプロジェクト』全体概要

会期| 2023年8月18日(金)〜11月4日(土)
参加| 無料
参加者・来場者数|計1,584名
主催|京都:Re-Search実行委員会(京都府、宮津市、京丹後市教育委員会、伊根町、与謝野町、海の京都DMOほか)
助成|令和5年度 文化庁 文化芸術創造拠点形成事業

そのほか、参加アーティスト・協力等の詳細は▼こちら
2023年度事業報告書(PDF)