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【事業レポート】アスレチック型コンサート~オーケストラで遊ぼう!~

山城地域|城陽市

 

多数のコンサートホールを有する山城地域では、昨年度に引き続き、次世代を中心とした音楽鑑賞者育成を目的とする体験型コンサートを開催しました。即興演奏家の片岡祐介氏や、京都を拠点に活動する和み交響楽団を出演者に迎え、誰もが口ずさめるスタンダードからクラシックの名曲まで様々な楽曲の演奏や、リズムを使った音遊びなどを実施。アスレチックのようにワクワクする“遊び”が仕掛けられたコンサートで、上質なコンサートホールの音を全身で感じるプログラムを行いました。

今回の事業レポートでは、メインプログラムを写真と振り返るとともに、公益財団法人九州交響楽団 音楽主幹補佐の柿塚拓真さんからの講評をお届けします。

 

2023年度地域プログラム(山城)
アスレチック型コンサート~オーケストラで遊ぼう!~

▼目次
アスレチック型コンサート~オーケストラで遊ぼう!~|概要
メインプログラム
講評|柿塚拓真
出演者プロフィール等

記|京都府文化芸術課、柿塚拓真
編集|大賀由佳子(京都府文化芸術課・専門人材)
写真| 佐々木香輔

 

アスレチック型コンサート~オーケストラで遊ぼう!~|概要

日時|2023年11月19日(日) 14:00開演/13:30〜受付
会場|文化パルク城陽 プラムホール(東館2F)
入場|無料/自由席
対象|小学生以上
来場者数|350名(定員600名)
出演|片岡祐介(音楽ファシリテーター)、和み交響楽団(演奏)
内容|・サブプログラム①|ホール探検ツアー
   ・メインプログラム
   ・サブプログラム②|トークセッション

写真撮影|佐々木香輔
主催|京都:Re-Search 実行委員会
   (京都府、城陽市教育委員会、公益財団法人城陽市民余暇活動センター ほか)

【アスレチック型コンサートとは?】
リズム・音の強弱・ハーモニーなど音楽を構成する要素を使って遊ぶ、楽器のすぐ近くで音を聴いてその振動を感じるなど、“遊び”を通して身体の使い方を学ぶアスレチックのように、奏者との音遊びを通して聴衆が能動的に音楽の楽しみ方を獲得するコンサートです。 

 

メインプログラム

時間|14:00〜15:30
出演|片岡祐介(音楽ファシリテーター)、和み交響楽団(演奏)

①どこから聴こえてくる?~《かえるの合唱》本気version|片岡祐介編曲
②ラデツキー行進曲|J.シュトラウス
③ワルツィング・キャット|L.アンダーソン
④ハンガリー舞曲 第5番|J.ブラームス
⑤オーケストラとリズム遊び!|片岡祐介編曲
⑥だったん人の踊り(歌劇《イーゴリ公》)より|A.ボロディン
⑦エニグマ変奏曲より第9変奏ニムロッド|E.エルガー

片岡氏、オーケストラ、客席が一体となったアスレチック型コンサートの様子

《オーケストラとリズム遊び!》で、手拍子で参加する客席の様子

《だったん人の踊り》で、オーケストラのすぐ近くで演奏を聴く鑑賞者たち

 

講評|柿塚拓真

記:柿塚拓真

公益財団法人九州交響楽団 音楽主幹補佐。福岡第一高等学校音楽科、相愛大学音楽学部卒業。これまで社会保険庁福岡社会保険事務局、日本センチュリー交響楽団、神戸市民文化振興財団他で勤務。2013年にブリティッシュ・カウンシル主催の英国派遣プログラムに参加。2019年国際交流基金アジア・フェローシップ。

メインコンサートは事前のアナウンスや挨拶はなく、舞台そして客席の中に設置された演奏位置への楽団員の入場で始まった。そして片岡氏他2名の演奏者が舞台中央のせりに腰掛け、おもむろにあえて強くない音で《かえるの合唱》の演奏を始め、次第に客席側の演奏者もその輪唱に加わる。演奏者間の距離があるので音の指向性や時間のズレも生まれ、ホールの広さと音響を聴覚と視覚で楽しんだところで、舞台上のオーケストラも加わり、これぞオーケストラという大合奏になる。開演前のソワソワとした雰囲気から始まり、気付いたら音楽の渦に巻き込まれていく。つまり日常と音楽の境目、断絶がなく自然と鑑賞する態度に導かれる構成だ。次に続く《ワルツィング・キャット》では進行役の片岡氏が客席に降りていき聴衆(主に子ども)にマイクを向けて、それぞれの思い思いの猫の声を拾いながらその後に演奏を続けた。躊躇する子どももいそうなものだが、おそらく公演の始まり方が日常と地続きだったからだろう、そうはならなかった。

《ワルツィング・キャット》では、音楽に合わせた猫の鳴き声で鑑賞者も演奏に参加。

これらのズレ、距離による音の渦も客席の反応と交流も日常生活であれば「遊び」として自然に発生する面白さや喜びのはずだ。ただ一般的なクラシック音楽、特にオーケストラ公演では大人数が一斉に合わせるために段取りを必要とする。しかしその約束事を踏襲する過程で、あり得たはずの音楽の美しさ、表現の楽しさを見逃していたり、切り捨てていることが多い。しかし今回の公演では片岡氏がその音楽の「美味しさ」を再び拾い上げ舞台上の常識との間の通訳をし、その間にある垣根をほぐしたと言っていいだろう。そうすると途端にホールが遊び場になり、音楽あるいは音楽家が遊び相手になる。

オーケストラと一緒に声を出してみる。

舞台上で聴くという体験に興味津々。

また最後の演目《ニムロッド》の前には片岡氏が客席に呼び掛けて、姿勢を整えたり、深呼吸をしたり、まるで体操のクールダウンのような案内をして、会場の空気が馴染んだところで演奏を始めた。この過程では聴く側が気持ちを整え、音楽の世界に集中していくことに加えて、片岡氏が単に案内をするだけでなく、会場の空気、観客の姿勢をしっかりと感じ、味わって進行したことが重要だ。つまり客席から得た雰囲気や意思を確実に受け取って舞台上の演奏にも反映させたのだ。「聴衆が能動的に音楽の楽しみ方を獲得する」というこのコンサートの目的そのものである。

メインコンサート後のトークセッションで片岡氏が言っていたように音楽の「その場で起こる奇跡を逃さない」ためには段取りから外れる勇気が必要である。そして観客から何かを受け取り演奏側が変化する勇気も。その勇気を少しずつ周りに広げていく進行役としての音楽家、その音楽家を支える制作者の発掘、育成、起用が今後は必要になるだろう。その奇跡を見つけることが「音楽の楽しみ方」であるし、奇跡の源となる「自然体」は、特に観客が子どもの場合は、客席の方に達人がいたりする訳だから。そのための大きな一歩としてこの事業を評価したい。 

メインプログラム後に行った、トークセッションの様子

 

出演者プロフィール等

音楽ファシリテーター
■ 片岡祐介|かたおか ゆうすけ

打楽器奏者・即興演奏家。1969年生まれ。子どもの頃から作曲や即興演奏に興味を持ち、木琴やピアノの演奏を自己流で始める。東京音楽大学を中退後、映画やコマーシャル音楽での経験を積んだ後、97年から2000年まで、岐阜県音楽療法研究所にて研究員として勤務し、障害児者との共演を多数おこなった。06年にはNHK教育テレビの幼児向け音楽番組「あいのて」に出演し、生活の中の身近なものを使って音を作り楽しむことを伝えた。現在は、YouTubeのライブ配信機能を使って、観客とやり取りしながら演奏するコンサートを開催したり、クラシック音楽を解説しながら演奏するコンサートや、即興演奏や歌づくりなどのワークショップもおこなっている。著書に、CDブック『即興演奏ってどうやるの』(共著 あおぞら音楽社)がある。

演奏
■ 和み交響楽団

2007年に結成されたアマチュアオーケストラ。「和み」という名前には、「一緒にいると和める仲間でありたい」「演奏を聴きに来たお客さんに和んでもらいたい」「和(=ハーモニー)を大切にした音楽をしたい」という想いが込められている。ブラームス自身も好んだとされ、彼の《交響曲第3番》(当楽団第1回定期演奏会曲目)のモチーフでも知られる「Frei aber Froh(自由に、しかし楽しく)」を合言葉に、「和み」の音楽を目指して日々努力を重ねている。 結成以来、京都コンサートホールで定期演奏会を行っており、ブラームスの4つの交響曲やベートーヴェンの《英雄》《田園》といった定番の名曲に取り組む一方、マーラーの交響曲、スメタナ《我が祖国(全曲)》などの大曲や、エストニア人作曲家レンバの《交響曲第1番》(日本初演)等、知られざる名曲にも挑戦している。

 

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