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【事業レポート】みんなで歌おう!合唱プロジェクト | 本編レポート【前編】

山城地域|笠置町、和束町、南山城村

目次

 

 山城地域の最南端に位置する笠置町・和束町・南山城村(以下、相楽東部地域)を舞台に、2025年6月から7月にかけて実施した、“歌”で人と人がつながる「みんなで歌おう!合唱プロジェクト」。本編レポート【前編】では、南山城村のやまなみホール開館当初から、「やまなみシルバーコーラス」の指導者として地域の文化活動に従事してきた髙原和子氏の所感を共有しながら、本番出演を目指して行われた本編ワークショップの様子をお届けします。

▶体験編レポートはこちら(リンク)

笠置町産業振興会館で行ったワークショップの様子

令和7年度京都府地域プログラム(山城)
みんなで歌おう!合唱プロジェクト 本編ワークショップ 概要

日時・会場 |2025年
     ・6月28日(土)15:00~17:00
      笠置町産業振興会館
     ・7月5日(土)15:00~17:00
      和束町健康福祉交流センター cha nova
     ・7月19日(土)18:00~20:00
      笠置町産業振興会館
     ・7月25日(金)18:00~20:00
      南山城村文化会館やまなみホール

講師 | 竹内直紀(テノール歌手)、東志奈(ソプラノ歌手)
伴奏 | 綿野仁音
参加 | 無料・要申込み
人数 | 54名参加
内訳 | パート別:
   ソプラノ18名、アルト21名、テノール7名、バス8名
   (歌唱サポーター3名含む)
   地域別:笠置町3名、和束町3名、南山城村12名、
   その他京都府域33名、府外3名
   

1. 音楽の力を信じて-プロジェクト発足時の想い-

“歌”を通して人と人がつながることを目指し、歌うことが好きという人から地域で合唱に親しむ人まで、歌の経験はもちろん年齢や居住地など様々な参加者を迎えて実施した本プロジェクト。相楽東部地域で合唱のワークショップを行い、合唱参加者が「やましろミュージックキャンプ」(※)の参加者とコンサートで共演するこのプロジェクトについて、地域の文化活動に従事する髙原氏に、プロジェクト発足当初の感想を伺った。
「正直なところ、最初は無茶なことをするなと思いました。人口がとても少ない地域なので(合唱参加者の)集客も厳しいのではと。一方で、ここには素晴らしい自然の風景があり、温かい人たちがいて、やまなみホールをはじめとする文化的な歴史もある。やってみようという心意気を持つ人がいるかもしれない、という希望を感じたのも事実です。蓋を開けてみたら50名を超える応募があり、音符が読めない初心者の方が何人も参加されました。音楽に興味がある人がこの地域にこんなにたくさん集まる様子を見て、音楽の持つ力はやはりすごいと思いました」

(※)やましろミュージックキャンプ
相楽東部地域の豊かな自然の中で、弦楽器を演奏する子どもたちがプロの演奏家による指導を受けられるイベントで、2025年は4回目の実施となった。

2. 課題曲「ハレルヤ」をマスターするために

プロジェクトが本格的に動き出した4月からコンサート本番までは約4カ月。この短い期間の中で、参加者は、ヘンデル作曲オラトリオ《メサイヤ》より「ハレルヤ」、ヴェルディ作曲歌劇《椿姫》より「乾杯の歌」、そして岡野貞一作曲「ふるさと」という3つの課題曲に取組んだ。
特に練習が必要なのは、「ハレルヤ」と「乾杯の歌」。それぞれ英語とイタリア語での歌唱となる上に、「ハレルヤ」はソプラノ、アルト、テノール、バスの各パートが、別々のタイミングで歌い出す箇所があるなど、合唱の初心者にとっては難易度の高い楽曲だ。
この2曲を短期間で仕上げるにあたり、楽譜に日本語の読み方を書き込み、練習用音源やレジュメを用意し、歌唱サポーターとして3名の精鋭に参加いただくなどの態勢を整えた上で、本編ワークショップを開始した。

 

練習目標やメニュー、作曲家の紹介、練習のポイントなどを記したレジュメを毎回の練習で配布し、参加者が自宅での練習などに活用した。

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3. 指導が育んだ音楽への集中力

合唱指導者として参加者を率いたのは、テノール歌手の竹内直紀氏とソプラノ歌手の東志奈氏。竹内氏がメインで全体をまとめ、東氏はウォーミングアップなどで参加者を幅広くサポートした。ワークショップを見学した髙原氏は、合唱指導者としての視点を交え2人の指導者について、以下のように語った。

「最初の練習の時、慣れない曲に不安の色が滲む参加者を前にして、竹内氏が、『ハレルヤの最後を歌ってみましょう』と曲の最後の『ハレ~ルヤ~!』の箇所を歌わせたことが印象的でした。ここは、みんなで歌えるフィナーレとして歌いやすく感動的な部分です。色々難しい箇所はあるけれど、『ここに辿り着けばゴールですから』と参加者に辿り着くべきゴールを最初に意識させ、自分たちでもできるかもしれないと思わせたことは、短期間で楽曲を仕上げていくにあたって非常に的確で素晴らしい指導だと感じました」

「地域を拠点に活動する東氏が入ったことも、プロジェクト成功の大きな要因だと思います。参加者のペースに合わせて、複雑なメロディの音程を一音づつ取るなど技術的な面はもちろん、面識のない参加者同士の交流をさりげなく誘導するという心理的な部分まで細やかなサポートを行い、全体をまとめる竹内氏の大きな助けになったと思います」

難しい楽曲に不安を抱く参加者もいたものの、ポジティブな言葉にユーモアを交えて参加者に語りかける2人の指導によって、参加者は「ハレルヤ」や「乾杯の歌」への集中を高めていった。

ユーモアと抜群のコミュニケーション力で参加者の心を掴んだ竹内氏。ワークショップ会場ではたくさんの笑顔や笑い声が上がる場面が見られた。

練習前のウォーミングアップの場面。東氏の前向きな声掛けにより練習がスタート。

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4. 本編ワークショップ参加者の声

・近くで熱心に合唱をやっている人がこんなにたくさんいたんだ、ということを知れました。(南山城村・40代)

・竹内先生の教え方がとても気さくで楽しく、初心者の私でも緊張せずに参加できました。歌を歌うことは初めてでしたが、今後も続けてやってみたくなりました。(和束町・60代)

・綺麗な声を出すために、「自分の好きな匂いを想像してそれを嗅ぐように息を吸う」ことを教えてもらえました。(京都市・~10代)

・初めて集まったメンバーでも、練習回数を重ねる度に合唱ができあがっていくことが楽しかったです。(木津川市・60代)

・毎回配られたレジュメに本日の目標や練習内容、次回までの練習について明確に示されていたことで、わずか4回しかなかった練習の密度をより一層高める効果があったように思います。(舞鶴市・60代)

・歌う時の表情や発音の仕方が良く分かりました。自分は女声パートだったので、東さんの指導はとてもためになりました。(南山城村・60代)

 

3回目のワークショップで行った自己紹介タイムをきっかけに、参加者同士が打ち解け、合唱団としてまとまっていった。

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5. 声を重ねて芽生えた、自信とつながり

当初からこのプロジェクトに取り組む参加者の様子を見てきた髙原氏は、練習を重ねる中で参加者に変化の兆しが見られるようになったと語る。

「練習の最初には不安を口にする人もいましたが、参加者が練習音源を何度も聴き、自宅などで自主的に練習していることを知っていました。竹内氏・東氏の指導で歌える感覚を掴み、何度も歌ううちに、参加者の表情が少しずつ自信に満ちてきていることに気がつきました。歌を歌いに集まって来たワークショップの会場に、自分の居場所がある、ということを感じたのだと思います。自分の居場所を持つことで、人は自信を持てるし、他の人とのつながりを感じることができる。そして、それが笑顔へとつながっていく。このワークショップは、日々を頑張って生きている参加者に、そんな“ご褒美”をもたらしたように思います。そして、ワークショップを経て、彼らがやまなみホールの本番でどんな歌を聴かせてくれるのか、期待の気持ちが膨らみ始めました」

ワークショップでの練習風景

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次回本編レポート【後編】では、やまなみホールで開催されたコンサート本番の様子や、プロジェクトが地域にもたらしたことについてレポートします。

編集・執筆:西尾晶子(京都府地域アートマネージャー・山城地域担当)
写真撮影:スタジオ記シ

講評者プロフィール

髙原和子 | たかはら かずこ

木津川市音楽芸術協会会長。木津川市社会教育委員会委員長。
ソプラノ歌手として地域の舞台に立ちながら、やまなみシルバーコーラス(南山城村)や木津川市少年少女合唱団、公民館サークル「歌おう心のうた」(木津川市)の指導者として、長年に渡り地域の音楽振興に取組んでいる。

▼講師のプロフィールなど、プログラムの詳細はこちら

https://kyotohoop.jp/program/yamashiro2025/

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