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[アーカイブ] 地域でコトを起こすには〜地域芸術祭トークセッション|研修

山城地域|木津川市

本記事は、2022年2月24日(木)に行われた、地域プログラム『地域でコトを起こすには〜地域芸術祭トークセッション』をレポートした、WEBサイト【京都府地域文化創造促進事業】のアーカイブ記事です。

研修『地域でコトを起こすには〜地域芸術祭トークセッション』

京都府木津川市で行われる「木津川アート」、京都府域展開アートプロジェクト「ALTERNATIVE KYOTO」に加え、三重県亀山市の「亀山トリエンナーレ」の3つの地域芸術祭から、運営に関わる4名を登壇者に招きトークセッションを行う研修プログラム。前半で各芸術祭の事例紹介、後半では参加者からの質問を軸にしたトークセッションを行いました。

日 時|2022年2月24日(木)14:00~16:00
場 所|木津川市 東部交流会館 多目的ホール
トーク登壇者|森敏子(亀山トリエンナーレ事務局長)
       林直(木津川アートプロデューサー)
       福嶋陽介(木津川市マチオモイ部観光商工課/木津川アート担当)
       八巻真哉(京都府文化スポーツ部文化芸術課/ALTERNATIVE KYOTOプログラムオフィサー)
進行|西尾晶子(京都府地域アートマネージャー山城地域担当)
主 催|京都府
協 力|京都:Re-Search実行委員会/木津川市マチオモイ部

 

研修プログラム開催のきっかけ

2000年代以降、地域経済の活性化や地域資源の活用などを目的として、各地で地域型芸術祭が誕生し、京都府山城地域の木津川市でも2010年に誕生した「木津川アート」が、関係者の様々な努力と地域住民の協力のもと、木津川市の地域資源として大きな位置を占めるまでになりました。そんな中、「うちも、木津川アートみたいな、人を呼べるイベントをやれたらなぁ」という、ある行政担当者のふとした一言が本研修プログラムを開催するきっかけになりました。まとまった予算や人的資源が必要となる地域芸術祭は、多くの事業担当者にとってハードルの高いものではありますが、規模の大小を問わず芸術文化に関わるイベントを開催する動きが地域で起こるきっかけになればという思いもあり、3つの芸術祭担当者の経験やノウハウを共有する本研修プログラムを実施しました。

 

 

前半/事例紹介

トークセッションの前半には、芸術祭の誕生から“今”に至るまでのストーリーや芸術祭そのものの事例を紹介していただきました。

亀山トリエンナーレ

亀山トリエンナーレは、事務局長を務める森敏子さんが、ご自身が生まれ育った亀山市の商店街が寂れていく様を見る中で、この商店街で何か作品を展示して賑わいを取り戻せないかという思いを抱き、動き始めたところからスタートしました。商店街の衣料店主の女性や森さんの仲間の作家たちとともに、1年間、土日のみ空き店舗でアートの展示を行ったところ、当時(2007年)、シャープ亀山関連の工場に勤めていた若い外国人研修生などがそこを訪れて、限られた時間ではありますが、少しずつ賑わいが見られるようになったと言います。その後、当時の三重県立美術館館長(井上隆邦氏)の協力を得て亀山トリエンナーレの前身の「アート亀山」が誕生し、2008年から毎年開催。その後行政も巻き込む形で少しずつ協力者を増やしてこられました。

「アート亀山」の時代、活動の輪が広がって行く中で行政との連携を考えるようになり、亀山市の文化に関わる課を訪れたそうですが、初めて訪れた時の「森さん、黒船が来たみたいですね」という行政担当者の言葉は、アートと行政のショッキングな(ある意味運命的な)出会いを象徴するものとして、森さんの記憶に深く刻まれているそうです。その後、「予算をください」とお願いしていた頃は行政とギクシャクした時代もありましたが、市民活動のスタートアップを後押しする他の課の支援にたどり着き、2014年に「亀山トリエンナーレ」という名称に変わった頃から、このイベントのために亀山市を訪れる人が増え始め、行政の反応も変わっていったそうです。

亀山トリエンナーレの輪を広げる際、森さんは、声高に協力を呼びかけるというよりは、「面白そうだから関わってみよう」と周囲に思わせ、この手の芸術祭を運営することのイメージとは対照的に、“軽やか”に亀山市にその輪を広げてこられました。「行政の人と一緒にアートの展示を見に行くことでアートの面白さを行政担当者が受け入れてくれ、今では、“森さん、この前こんな展覧会に行ってきました”と言ってくれるようになり、そういうやりとりが楽しい。展覧会の後は、地元商店街とアーティストとの間に新たな繋がりや絆が生まれ、このためにやってきたんだなという気持ちにもなりました。やっぱり人と人なんですね」という言葉から、様々な立場の人たちと丁寧に信頼関係を築きながら、森さん自身が楽しんで亀山トリエンナーレの輪を広げてこられたことが印象的でした。


亀山トリエンナーレ 2017記録誌より

 

木津川アート

住民の小さな動きが行政も巻き込んだ大きな輪になっていった亀山トリエンナーレに対して、木津川アートは行政の呼びかけに住民が応える形で誕生し、作家やプロデューサー、ボランティア、市職員の協働の元に行われてきました。

2007年、旧木津町・旧加茂町・旧山城町が合併して木津川市となり、今までは隣町だった各町の住民たちがお互いの地域を知ることや、さらに市としての一体感を形成して行くことが、新しく誕生した木津川市の課題となっていました。2010年、奈良県で平城遷都1300年祭が開催される時に、平城京とも繋がりの深い恭仁京が置かれた木津川市もこのイベントに参加することになり、翌年に京都で予定されていた国民文化祭の実行委員会も立ち上がったところで、「木津川市の良いところを発信するような提案を」と木津川市が広くアイデアを募ったところ、現代アートの展示を木津川市内各所で行う提案をしたのが、初代プロデューサーの故佐藤啓子さんでした。

住民が自分たちの住む“まち”を見つめ直すきっかけを作り、市の魅力や文化を発掘して内外に発信することを目的とした“まちづくり事業”としてスタートした木津川アート。プロデューサーやディレクターをはじめ、ボランティアスタッフの多くも木津川市民が務め、住民同士、また住民と行政が話し合いながら手作りで行うのが木津川アートのポイントであると、木津川市マチオモイ部の福嶋さんが語ってくださいました。

続いて、プロデューサーの林さんに、木津川アート全体の概要を説明していただきました。2014年以降はビエンナーレ形式(隔年開催)となり、開催までの2年間をマラソンになぞらえて事業の実施を進めているそうです。開催の前年は地域を知るための準備期間とし、プロジェクト事務局と住民が一緒に地域を発見するマップを作成したり、地域の歴史を知るための講座を開いたりと、様々なプレイベントが行われています。開催まで1年を切る時期から作家の募集など、開催に向けた準備が進められ、市外から来る作家や来場者に木津川市のことを説明できるようにするためのまち歩きや、作家を迎える時の炊き出し、展示会場の掃除などの地道な活動も木津川アートのプロセスの一つであるという認識の元、ホスピタリティ(おもてなし)のマインドを大事にしているそうです。この地道な活動を通して、関わった人たちの中に木津川市への愛着が育まれ、住民同士また住民と行政との距離を縮めることに繋がっています。

木津川アートの重要な成果として、アートを通じて魅力あるまちづくりが進みつつあるということも強調されました。具体的には、ギャラリーやレンタルスペースなどを併設する木津川市情報発信基地キチキチや、当尾(とうの)地区でフリーマーケットや工芸品の展示などを開催する当尾文化祭など、住民による様々な地域活性に向けた取り組みが行われているそうです。会期中の地域住民の関わりはもちろん、会期後も住民が“この市の中で自分にできること”を形にして行く様は、木津川アートの力がじわじわと浸透している証とも捉えられるのではないでしょうか。

木津川アート2021の様子

 

ALTERNATIVE KYOTO

京都府が取り組むALTERNATIVE KYOTOは、企画・運営を担当する京都府文化芸術課の八巻さんから事例紹介がありました。ALTERNATIVE KYOTOは元々、2019年から夜間コンテンツ創出による文化観光事業として始まった京都府のアートプロジェクト。2021年度は東京2020オリンピックや文化庁移転を契機とした取組の一環として、アーティスト・イン・レジデンス事業「京都:Re-Search」などの文化事業を複合させ、アートフェスティバルとして展開されました。紹介の最初には昨年(2021年)実施されたALTERNATIVE KYOTO全体の展示を集約したPR動画が流されたあと、山城管内で行われた八幡市での作品制作や展示について紹介されました。

八幡市では2020年からゲストアーティストを含む京都:Re-Searchの参加アーティストたちが市内に滞在し、地域の歴史や資源を作品制作に繋げる取り組みが行われました。アーティストそれぞれが地域に入りリサーチを行う中で行き着く人やモノ・コトもそれぞれで、最終的な成果発表となった2021年の展示では様々な視点から八幡の要素を取り込んだ作品が披露されました。

「放生 / 往還」をエリアテーマに、展示会場の一つである石清水八幡宮頓宮殿では、解体されたコンクリートを直立させたインスタレーション作品(島袋道浩)や、八幡の道端に生える雑草の生命力を切り取った写真作品に作家自らが回廊の落書きを「グラフィック」として写した作品群(石川竜一)が展示されました。これらの作品では、“捨てられる運命にあったモノに別の役目を与え、生活から溢れたモノを循環させる営み、またそれによって私たち人間を含めた生命の力強さを再認識する”という試みがなされました。
松花堂庭園・美術館で展示された4つの作品や、会期中に行われた「水田跡地活用プロジェクト」、「松花堂昭乗の四つ切り箱を使ったこども造形ワークショップ」など、八幡という土地に滞在しリサーチした成果として、様々なアプローチで八幡とアーティストを結びつける展示やプロジェクトが実施され、アーティストと住民、また住民同士の間に新たな交流が生まれました。

島袋道浩 《再生》 / ALTERNATIVE KYOTO 2021 in 八幡(大京都 2021 in 八幡)

 

後半/トークセッション

後半は会場からの質問をもとにしたトークセッションを行いました。会場から多くの質問が寄せられたことや時間の都合もあり、登壇者が質問に答えることがメインとなりましたが、参加者それぞれの関心に基づいた質問が多数寄せられました。
3つの地域芸術祭の運営を担う方々に登壇していただきましたが、その中でも木津川市マチオモイ部福嶋さんの登壇は、行政担当者が地域芸術祭の担当として話をするという新鮮さもあり、「行政の中で木津川アートがどのように受け入れられていったのか」など、福嶋さんへの質問もいくつか見受けられました。木津川アートは、今でこそ木津川市にとっては大きな財産に育ちましたが、職員研修として期間中の作品の見守りが行われたり、開催準備で所管課以外の課から作業資機材の貸し出し応援があったりと、回を重ねるごとに行政内でも受け入れられた様子を福嶋さんが語ってくれたことは、行政職員の生の声として非常に貴重なものであったと思います。

その他に、ALTERNATIVE KYOTOと地域をつなぐコーディネーターの役割を担った京都府のアートマネージャー制度への質問や、ALTERNATIVE KYOTOの作家選出方法についてなどの質問が八巻さんに投げかけられました。作家選出方法については、各地域芸術祭で方法が異なることもあり、登壇者やその関係者からも同じように関心が寄せられ、各芸術祭における手法の違いや運営ノウハウなどの情報を共有する場を新たに求める声も聞かれました。
今回の研修プログラムの参加者は、行政担当者、民間の事業担当者、プロデューサー、地域コーディネーター、アーティストなど、様々なバックグランドを持つ人たちでした。それぞれの立場によって、この研修プログラムで参考にする点は異なりますが、何人かの参加者から、今回のプログラムの人選が興味深かったという声もありました。森さんという個人が最初に動いて行政を巻き込む流れを作った亀山トリエンナーレ。行政からの呼びかけをスタートに住民と行政が協働し模索しながら続いてきた木津川アート。展覧会を含んだアーティスト・イン・レジデンス事業など行政の文化事業を複合させ、府域で縦断的に展開したALTERNATIVE KYOTO。これら3つの性格の異なる地域芸術祭の運営担当者から、それぞれの「地域でコトを起こす」事例やノウハウが共有され、参加者それぞれの「コトを起こす」につながるヒントを提示する研修プログラムとなりました。

(記事執筆:西尾晶子(京都府地域アートマネージャー・山城地域担当))