丹後地域|京丹後市
機道具を楽器とした音の表現を通じて丹後地域を見つめた今年度のKaico―参加型アートプロジェクト「音 気楽 団-機(はた)の妖精にきく-」。楽団長であるサウンドアーティスト鈴木昭男の感性を参加者はどのように受け止めたのか、京丹後市で暮らし、地域の高校生や住民の居場所づくりや、探求活動への伴走支援をしてきたライター・コーディネーターの稲本朱珠さんの目線を通してお届けします。前回のワークショップ「はたおと・さぐり」与謝野編に続き、今回は、9月27日に行った、ワークショップ「はたおと・さぐり」京丹後編です。
「音 気 楽 団-機(はた)の妖精にきく」|ワークショップ「はたおと・さぐり」京丹後編概要
日時|2025年9月27日(土) 13:30-17:00
講師|鈴木昭男(サウンドアーティスト)
対象|小学生以上
会場|浅茂川区民会館 京丹後市網野町浅茂川1800
13:30~ 「耳をすます」鈴木昭男によるミニコンサートとお話
「道具との出会い」
14:30~ 機工場見学(田勇機業株式会社)
15:30~ 「音さぐり」(浅茂川区民会館→八丁浜海岸)
17:00頃 終了
体験レポート 「はたおと・さぐり」京丹後編
与謝野編から1週間が経った2025年9月27日(土)、浅茂川区民会館に新たな「音 気 楽 団(おんきがくだん)」の楽団員メンバーが集まった。このあたりは焼杉板の壁の機屋が並び、今でも「ガシャガシャ」という機音があちらこちらから響く。生まれてからずっと浅茂川で暮らす70代の方から、東京からやってきた20代の若者、丹後外の京都北部地域の子どもたちまで、今回も幅広い参加者が集まった。


今日は、どんな音が生まれるのだろう。人によって、場所によって、空気によって音が変わっていくことを知った筆者は、より楽しみだった。
前回同様、昭男さん自作の音器「アナラポス」の演奏を聴くことで、参加者は昭男さんの表現方法に出会う。反響音やリズムを活かしながら、昭男さんの前に種類ごとに美しく並べられた機道具を楽器にしていくのがミッションなのだと伝えられた。


「たとえば、こうして紙管(しかん)は笛のようになるし、くだを擦るだけでリズムになる。失敗はないです。乱暴にすると乱暴な音になるし、心を込めてすると生きた音になる。ちがう素材やかたちのものと出会って、おもしろい音になります」
そうは言われても、自分たちにできるのだろうか。不安そうな顔をしている参加者に向かって、昭男さんは微笑む。「誰でもできちゃうし、宇宙人でもできちゃう」

実家で機をやっていたという浅茂川の女性。「これがええわぁ~」と、ジャガード織機で模様を織るための紋紙を手回しオルゴールにセットしたものをずっと回していた。現代音楽のような音が流れる。まさか紋紙も、オルゴールにかけられる日がくるなんて思っていなかっただろう。時代が交錯するような気がした。

今回の工場見学は、1931年創業で丹後ちりめんの撚糸・整経から製織までを行う田勇機業株式会社へ。まず案内してもらったのは、駐車場の一角。ここは一体・・・? 
昭男さんは、1988年の秋分の日に一日中自然の中で耳を澄ます「日向ぼっこの空間」という作品を、ここ網野町で発表した。日干しレンガを約一年半かけて一万個手作りして積み上げた山の中の空間。今は残っていないが、その様子を描いた壁画と「点 音(おとだて)」ポイントがある。足と耳がいっしょになったマーク(思わず足を乗せたくなる!)に立ち、耳をすませば、「日向ぼっこの空間」を思い出すことができるという。

田勇機業株式会社代表取締役社長の田茂井勇人氏は、先代が「日向ぼっこの空間」に協力していて昭男さんと交流があった。工場の中で丹後ちりめんの話を聞く。同じ白生地でも、糸の撚りや柄の有無などで、まったく異なる表情がある。それを作りだすのは、機道具と工場で働く職人さんたちであり、「音 気 楽 団」が奏でようとしている音のイメージと重なった。

丹後地域以外の参加者は初めて工場に入ったという人も多く、一つひとつの工程に興味津々。一度工場に入ってしまうと機道具の動きに引きこまれて、なかなか出てこられない様子だった。そんな思いで会場に戻り、楽器とする機道具を選びなおす。先ほどよりも真剣に、昭男さんと相談もしながら音を探っていった。

この日は快晴で、しばらく続いていた雨がすっかりどこかに。秋の風とすこし淡くなった青空に、ちりめん生地の団旗がよく映えた。かつては機音の響きで町が揺れていたとも言われる迷路のような路地を歩き、うきうきしながら屋外 会場の砂浜へ。
「わー、綺麗な海!」山間部からやってきた子どもたちの声が、白い砂浜に響く。昭男さんも、昭男さんのもとに集まる参加者も、みんな海がよく似合った。

リズミカルな波の音を感じながら、持ってきた機道具で音を出してみる。みんなで一つの輪になって、となりの人から送られた音を「きき」、自分の音とリズムを重ねて、またとなりに送るということをくりかえした。

数種類の機道具を組み合わせて、まるで一つの楽器のように奏でている人もいれば、ずっと同じものをたたいたり、こすってみたりしながら変化をつけている人もいる。順番がまわってくると、つい新しい音やリズムを奏でたくなって、自然と創意工夫が生まれた。

一人ずつから始まって、5人ずつ、半分ずつと増えて、最後には全員で。輪の真ん中に集まって「みんなで!自由に!」昭男さんが、リズムにのって呼びかける。
あっ、これが「はたおと・あそび」か。音が、遊んでいた。
浅茂川区民会館に戻って、グループに分かれて演奏をした。数人で奏でられる音を「きく」ことで、パフォーマンスのイメージが湧いてくる。
「感じるか分からないくらいの小さな音から始めて、だんだん盛り上げてください」
昭男さんの一言で、一気に音にまとまりが生まれて“演奏”という感じがでてくる。木、陶磁器、ガラス、金属など素材によって異なる音の表情、高さ、強弱など、たくさんの種類の表現ができることを経験する時間だった。
最後に参加した感想をシェアすると、自分の体の動きで音が出ることにやみつきになった人、練習が必要だと決意した人、音楽は苦手だと思っていたけれど楽しかったと語った人もいた。

「今日は音に集中して、楽団員として楽しみました。本番も素晴らしい演奏になると確信しました。私のダンスといっしょに楽しみましょうね」旅の踊り子としてゲスト出演される宮北裕美さんの言葉に、本番への期待が高まる。
「自分の音をしっかり持って参加してほしいと思います。本番まで、自分の音になるまで、納得いくまで、練習がてらたくさん音を出して過ごしてほしいです。自由になって、非日常を楽しめば、きっとおもしろい展開になるでしょう」
昭男さんの言葉から、与謝野編で教わった大切なこと、「はだかのこころ」を思い出す。気づかないうちに纏ってしまっている何かから解放された状態を、自由と呼ぶのだとしたら。音をさぐり、耳をすますことは、自由になる方法の一つなのかもしれない。

「今日ここには音が好きなひとが集まっている、ということが伝わってきました。ありがとう」
昭男さんの「ありがとう」は、ほんとうに”ありがとう”という音がする。安心する音だ、と思った。
いまだにパフォーマンスの具体的なイメージは立ち上がってこないけれど、昭男さんからの宿題は「はたおと・さぐり」をすること。当日までの1週間を、筆者もどきどきしながら過ごした。(つづく)
写真撮影|安田哲馬 ©photo by bozzo (*除く)
記事執筆
稲本 朱珠|いなもと すず

1992年生まれ、京都市出身。同志社大学社会学部卒業後は展示会主催会社やバックオフィス業務などを経て、2020年に京丹後に移住。高校生と地域の人の”やってみたい”を実現していく居場所づくりや京都府北部の中高生の探究活動の伴走に従事。現在は京都市内を中心にフリーランスライター・コーディネーターとして活動中。
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体験レポート一覧
・ワークショップ「はたおと・さぐり」与謝野編
・ワークショップ「はたおと・さぐり」京丹後編
・パフォーマンス「はたおと・あそび」












