丹後地域|与謝野町
2025年度の地域プログラム(丹後)として「音 気 楽 団-機(はた)の妖精にきく-」を実施しました。本プログラムは、2023年度から続く「Kaico―参加型アートプロジェクト」で、約1300年前から織物の里であり国内最大の絹織物産地である丹後地域の日本遺産『丹後ちりめん回廊』への理解を深め、次世代を担う子どもたちをはじめとする地域住民自らがその価値や魅力を表現し発信する取組として、丹後地域の2市2町で展開しました。
音をさぐる〈ワークショップ〉と、音であそぶ〈パフォーマンス〉で構成され、
音楽表現を通じて丹後地域を見つめた本プログラムにおいて、どのように「まち」と「ヒトとヒト」の交流が起きたのか。2023年度に出張ワークショップ、2024年度には地域サポーターとして運営スタッフに加わりプログラムに携わった、ライター・コーディネーターの稲本朱珠さんに取材していただきました。
まずは、9月20日に行った、ワークショップ「はたおと・さぐり」与謝野編の様子をおとどけします。
「音 気 楽 団-機(はた)の妖精にきく」|ワークショップ「はたおと・さぐり」与謝野編概要
日時|2025年9月20日(土) 13:30-17:00
講師|鈴木昭男(サウンドアーティスト)
対象|小学生以上
会場|AMANOHASHIDATE TERRACE COFFEE (ATC)
与謝野町岩滝1788
13:30~ 「耳をすます」鈴木昭男によるミニコンサートとお話
「道具との出会い」
14:30~ 機工場見学(丸仙株式会社)
15:30~ 「音さぐり」(ATC→阿蘇シーサイドパーク)
17:00頃 終了
体験レポート 「はたおと・さぐり」与謝野編
「音をさぐる」というテーマ。使われなくなった機道具(はたどうぐ)が楽器で、楽譜も指揮者もない即興のパフォーマンスをする!?
企画の内容を読んで、具体的なイメージを持てた人がいるのだろうか。きっと、よく分からないけれど何だかおもしろそう!と集まった人たちと、2025年9月20日(土)、最初のワークショップ「はたおと・さぐり」与謝野編は実施された。
会場は天橋立を一望できる場所にある「ATC-Amanohashidate Terrace Coffee」。カフェを運営する丹菱株式会社は、丹後ちりめん※を製造しており、階下の工場からは機音(はたおと)が響く。
※丹後ちりめん:京都府北部・日本海側に面した海の京都・丹後地方で美しい水を活かして300年以上にわたって織りつづけられてきた、緯糸に強撚糸を使用し精練加工を経ることで生地表面にシボと呼ばれる凹凸が生まれる、後染め織物の総称

「今日は、こんなにたくさん集まっていただき、ありがとうございます。みなさんは今から『音 気 楽 団(おんきがくだん)』のメンバーです」
丹後在住で「きく」ことを探求しつづける世界的サウンドアーティスト、鈴木昭男(すずきあきお)さんが呼びかける(みなさん親しみを込めて“昭男さん”と呼ばれるので、この記事でも昭男さんと表記します)。パフォーマンスで旅の踊り子としてゲスト出演するアーティスト宮北裕美(みやきたひろみ)さんのアシストで、20代の頃に自作した糸電話の形に鉄のコイルスプリングを両端の缶底につないだ「音器(アナラポス)」を演奏した。

高い声のような、水のさざめきのような、さまざまな音が大きくなったり小さくなったりしながら、エコーが空間に広がる。丹後地域だけでなく京阪神からも集まった、子どもから大人まで27名の参加者たちは、一気にその世界に惹きこまれた。

「ここに並べているのは、織物工場から提供してもらった機道具。今は使われていないものを譲っていただきました。気になるものを手にとって音を出してみましょう」
丹後ちりめんによって栄えたこの地域には、たくさんの織物工場があり、昭和の高度成長期にはあちこちで織機の「ガシャガシャ」という音が響いていた。昭男さんが丹後に移住した頃もそうだったという。今では多くの工場が縮小や閉鎖をし、機音は小さくなってしまった。春から夏にかけて、昭男さんや宮北さんは閉じてしまった工場と現役の工場、両方に足を運んで、楽団で使うための心惹かれる機道具を集めた。


参加者は一斉に機道具のまわりを囲み、思い思いに手に取る。眺めたり、こすったり、吹いてみたりしながら、音を知っていく。あっというまに会場は音であふれた。


「次に、近くの織物工場で自分の選んだ楽器(機道具)がどこでどんな働きをしているか見に行きます」
楽団の団旗を掲げなから、みんなで与謝野のまちを歩く。団旗は与謝野町にある臼井織物株式会社提供の丹後ちりめんの生地に、スタッフでシルクスクリーン・プリントをした手づくりのもの。車社会の地域では歩いている人がめずらしいので、車からの強い視線を感じながら歩いた。

訪れたのは、与謝野町で150年の歴史を持つ丸仙株式会社。主に、丹後ちりめんの風呂敷生地を織っていて、近年は寝具や衣類なども手掛ける。

いよいよ工場の中へ。参加者は、工場の広さや初めての光景に圧倒されながらも、手に持っている自分の楽器を探しながらあちこちを見まわす。選んだ楽器(機道具)の役割と実際の動きを見ることで、音の出し方に閃きが生まれる。愛着が増していく。


会場に戻ると、参加者一人ひとりの自己紹介と楽器(機道具)を選んだ理由、工場見学の感想などをシェアした。「丹後地域在住でも、機道具というミクロの視点から工場を見る楽しさを感じた」「工場で体全体が音に包まれた感覚をパフォーマンスにつなげたい」という声があった。子どもたちも、小さな音を大切に奏でていたり、織機の音を面白いと感じたりしていた。
個々で音をさぐる時間を経て、会場前に広がる芝生の広場(阿蘇シーサイドパーク)に出て「はたおと・さぐり」をすることに。昭男さんが杭を打った5ヶ所を、機道具で音を奏でながら歩いてまわっていく。すれ違うときに、相手の音に耳をすませて、自分の音やリズムを変えていくのだという。


相手の音を「きく」というのが、意外とむずかしい。自分がどんな音を出すかを考えていると、それしか聞こえなくなる。立ちどまって目を閉じると、まわりの音が現れるので、これらを同時にする練習が必要なのだと思った。
途中で雨が強まってきたので、屋内でグループごとに音を「きき」合う時間に。初めて出会った人同士の即興演奏。近づいたり離れたり、同じリズムを繰り返したり、音の高さを変化させてみたり。木の音、金属の音、磁器やガラスの音が混ざる。まるで織物工場のような「はたおと」が、響いてきたのだった。

「とってもすばらしかった。終わり、と言うのが惜しかったくらい」
ニコニコしながら参加者を称える昭男さんのあたたかい拍手で演奏を終え、パフォーマンスに向けての質問タイムに。
選んだ楽器(機道具)を活かせる音の出し方や、演奏するうえで大事なことは何かという質問があがる。初対面の参加者たちは、もうすっかり楽団員のメンバーとして、思いを一つにしていた。


「生きた音を出す集中力、『はだかのこころ』が大事です。当日までにたくさん音であそんで、探究してきてください。みなさんのすてきなセンスで、たのしみましょう」
自分の音・自分のリズムが体に馴染めば、相手の音に耳をすまし、そこに共鳴しながら、みんなで音やリズムをつくっていけるのかもしれない。意気込みを瞳に宿して帰っていく楽団員たちを見ながら、2週間後がとても楽しみになっていた。(つづく)

写真撮影|安田哲馬(*除く)
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体験レポート一覧
・ワークショップ「はたおと・さぐり」与謝野編
・ワークショップ「はたおと・さぐり」京丹後編
・パフォーマンス「はたおと・あそび」












