南丹地域|京丹波町
京丹波町の人々が暮らしの中で受け継いできた民衆による伝統芸能「和知人形浄瑠璃」。
2025年の秋に、アートユニット・山成研究所の二人の視点を通じてその魅力に迫るワークショップを行い、その集大成として同年10月にパフォーマンス及び体験型展示を実施しました。
本プログラムについて、和太鼓奏者であり、森の京都文化観光サポーターとして京丹波町の伝統芸能団体をサポートしている凛さんに取材いただきました。
開催概要
パフォーマンス「まねっこ浄瑠璃大行列」
日 時|2025年10月25日(土)
からくり屋台(体験型展示)10:00~16:00
まねっこ浄瑠璃大行列(パフォーマンス)11:30~12:00
会 場|道の駅「和」なごみTERRACE
参加費・観覧料|無料
企画・制作・プログラム進行|山成研究所(辰巳雄基、うー、アシスタント:中井梓太郎)
からくり屋台制作|松本成弘
パフォーマンス出演者|11名
参加者|1,655名
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まねてまねぶ伝統芸能「まねっこ浄瑠璃大行列」
これまでに実施してきた「三味線」「人形」「語り」のまねっこワークショップ。その集大成となった「まねっこ浄瑠璃 大行列」は、道の駅「和(なごみ)」の野外広場「なごみTERRACE」にて開催された。屋内のクローズドな会場ではなく、観光客も多く訪れる道の駅というオープンな場で開催したことで、より幅広い層の来場者が気軽に立ち寄れる機会となった。
当日は、隣接する伝統芸能常設館において「京丹波伝統芸能文化サークル定期公演」も行われており、道の駅「和」は文化に彩られる一日となった。和知人形浄瑠璃会も、同定期公演には定期的に出演しており、“本物の和知人形浄瑠璃”を鑑賞できる貴重な場である。今回はあいにく同会の出演はなかったものの、和知人形浄瑠璃会の人形展示が特別に行われた。


なごみTERRACEには、特殊なからくり屋台が次々に設置され、日常から切り離されたような不思議で魅力的な空間が生まれていた。野外のオープンスペースは、開放的で多くの人の目に留まりやすいという利点がある一方で、ホールステージのように観客と演者が一体となる“集中の場”を作ることは容易ではない。そのため、「人形浄瑠璃=格式ある芸能」というイメージを持つ方が多い中、どのように距離感を感じさせることなく、関心を引き出すのかに期待を寄せていた。実際には、からくり屋台の存在が非日常の雰囲気を生み出し、遊び心を感じさせる空間を形成することで、来場者との距離感を和らげる役割を果たしていた。その結果、会場全体は独特の「異空間」として存在し、人形浄瑠璃と来場者とをやわらかく繋ぐ空間となっていた。
からくり屋台は、人形浄瑠璃を構成する三つの要素「三味線」「人形」「語り」ごとにそれぞれ用意されており、いずれも自転車のペダルをこぐことで動力を得る仕組みである。風変わりな仕掛けが施された屋台で体を使い遊ぶように楽しみながら、人形浄瑠璃の世界を覗き見る体験型展示だ。木製のからくり屋台が和知の自然景観と調和しながらも異彩を放つ様子は大変印象的でもあった。
三味線屋台
中心棒に動力が伝わり、周りに張られた弦を鳴らして和知オリジナル演目『長老越節義之誉(ちょうろうごえせつぎのほまれ)』の一節を奏でる仕組み。
語り屋台
語りの台詞を録音した専用カードを器械に通して音声を再生する。ワークショップ参加者や観客が『長老越節義之誉』の一節を録音・再生するために必死でペダルをこぎ発電させる姿はコミカルで、子どもたちにも親しみやすい雰囲気を生み出していた。


人形屋台
発電によって稼働し、屋台に吊るされた人形がメリーゴーラウンドのように回転する。観客は持参した人形に用意された着物の衣装を着せ、吊るして楽しんだ。自転車のかごに設置された人形はブレーキをかけると右腕が上に動く仕掛けになっており、一見すると人形浄瑠璃とは離れているように見えるが、これは「右腕を操り、左腕をたらしたままにする」という和知人形浄瑠璃の特徴を再現している。一般の来場者には気づかれないが、和知人形浄瑠璃を学んだ者が見ると唸るような巧みな工夫が凝らされていた。


サドじい屋台
「三味線」「人形」「語り」屋台をまわるスタンプラリーで、三つのスタンプを集めると体験できるのが、「サドじい屋台」である。屋台中央には自転車のサドルの顔をもつ「サドじい」と呼ばれる人形が据えられている。屋台手前に設けられたハンドルを手で回すことで、小さなお皿が設置された回転台がゆっくりと動き、仕掛けによって「サドじい」の口から一粒の京丹波町の特産品、黒大豆が飛び出す。回転台のお皿のいずれかにうまく載れば成功、黒大豆を持ち帰ることができる。単純な仕組みでありながら、子どもから大人までを引き込み、会場には自然と笑顔や歓声が広がっていた。


パフォーマンスの見せ場は、まねっこ三味線・まねっこ人形・まねっこ語りの各ワークショップ参加者と、三種のからくり屋台が息を合わせた共演であった。『長老越節義之誉』の一場面を上演するのだが、三味線、人形遣い、太夫の三者が一体となって演じる人形浄瑠璃の難しさや面白さが体現されており、観客は「次に何が始まるのだろうか」という期待と高揚感を抱きながら、共演に引き込まれていった。披露された『長老越節義之誉』の一節は、本来は悲劇的な場面であり、通常の上演では観客が涙するところである。しかしこの日、会場は輪になった観客たちの笑顔と笑い声に包まれていた。それは、からくり屋台の動きやタイミングが思うように合わない瞬間さえも含めて面白さとして受け止めながら、一つのものを形にしようとする前向きな雰囲気が会場に満ちていたからであろう。試行錯誤の過程を会場全体で見守り、分かち合うことによって、あたたかな一体感が確かに生まれていた。
和知の自然の中に響く、“まねっこ”の三味線や語りの音色、青空の下で演じる“まねっこ”人形遣いたち、それを囲む人々の輪。その情景は、「和知人形浄瑠璃」が生まれた当初にあったであろう、地域と芸能が一体となる原風景を思い起こさせるものであった。




この「まねっこ浄瑠璃」の取組は、完成された芸を一方的に鑑賞する場を設けるものではなく、試行錯誤の過程そのものを共有し、その場に集った人々がともに関わり合いながら芸能に親しむ機会を生み出していた。その結果、子どもから大人まで年齢の隔てなく交流が生まれ、新たな出会いの場となっていたことは、大きな成果であると言える。今後もこのような取組を重ねていくことで、和知人形浄瑠璃は「受け継がれる文化」としてだけでなく、「共につくり続けられる文化」として、地域の中に息づいていくことが期待される。

写真撮影|WONG Chung Wah(*を除く)
記事執筆
凛(Rin)

三重県鈴鹿市出身、京丹波町在住。
2003年、名古屋にて和太鼓プロチームを仲間と共に創設し、中心メンバーとして全国各地で演奏。2010年よりソロ活動を本格化し、日本国内にとどまらずこれまでにオランダ・ベルギー・アメリカ・アジア各国など海外公演も多数。ピアノやヴァイオリンなどの洋楽器、尺八や三味線などの和楽器に加え、オーケストラ・吹奏楽・書道・ダンス・ミュージカルなど、ジャンルを超えた表現者とのコラボレーションを重ねてきた。演奏活動のほか、演奏指導や楽曲提供も行い表現の幅を広げている。
また、地域文化の保護にも積極的に取組み、「森の京都DMO」文化観光サポーターとしても活動。京丹波町の無形文化財継承など、文化と土地、人と人とをつなぐ役割を担っている。
鈴鹿市「すずか応援アンバサダー」、同市文化事業団評議員も務める。
レポート一覧
・「まねっこ浄瑠璃」まねっこ三味線
・「まねっこ浄瑠璃」まねっこ人形
・「まねっこ浄瑠璃」まねっこ語り
・「まねっこ浄瑠璃」まねっこ大行列












