南丹地域|京丹波町
京丹波町の人々が暮らしの中で受け継いできた民衆による伝統芸能「和知人形浄瑠璃」。
2025年の春から秋にかけて、アートユニット・山成研究所の二人の視点を通じてその魅力に迫るリサーチとワークショップを行いました。
人形遣い・三味線・太夫の所作などを“まねっこ”して、和知人形浄瑠璃を体感したワークショップ「まねっこ浄瑠璃」。その三つめのワークショップとなる「まねっこ語り」の当日の様子について、お届けします。
開催概要
ワークショップ「まねっこ語り」
日 時|2025年10月19日(日)10:00~12:00
会 場|京丹波町和知ふれあいセンター
参加費|無料
講 師|和知人形浄瑠璃会(太夫・尾池吉嗣、 特別参加:人形遣い・春田貢、三味線・小林勝久)
山成研究所(辰巳雄基、うー、アシスタント:中井梓太郎)
参加者|10名
プログラムの詳細はこちら
題材演目
『長老越節義之誉(ちょうろうごえせつぎのほまれ)』旧和知町仏主(ほどす)村に残る物語から制作された和知人形浄瑠璃オリジナルの演目。全四段で構成。江戸時代、和知町と美山町にまたがる長老ヶ岳を舞台にした、藤田猪平(いへい)とその妻・お紺(こん)の物語。年貢の減免を訴えたことで捕らえられ落命した夫の遺志を果たすべく、二人の子を連れ長老ヶ岳を越えていくお紺の姿は涙を誘う。昭和59年(1984年)に発表、平成11年(1999年)に再編される。現在は和知人形浄瑠璃会及び地元の中学生に受け継がれている。
まねてまねぶ伝統芸能「まねっこ浄瑠璃」まねっこ語り
三味線、人形に続く「まねっこ浄瑠璃」の最後のワークショップ、太夫(語り)について深める「まねっこ語り」。参加者は、太夫が物語を語る際に使用する台本「床本(ゆかほん)」をつくり、和知人形浄瑠璃のオリジナル演目『長老越節義之誉』の第三段『子別れの段』を題材に、最も聞きどころとなる場面の語りに挑戦した。
ワークショップは2時間という限られた時間であったが、企画・進行を担う山成研究所が参加者の興味や好奇心を引き出す様々な“入口”を設けていたことで、多様な視点から太夫やその語りの魅力に触れられる充実した内容であった。
当日は、本プログラムへ初参加となる人もいたが、前二回のワークショップの参加者、小学生の時から授業で和知人形浄瑠璃に親しんでいる和知中学校の生徒たちが集まり、和やかな雰囲気であった。会場には、開始前から和知人形浄瑠璃会の公演映像とその音声が流れ、参加者を人形浄瑠璃の世界に誘っていた。


はじめに、和知人形浄瑠璃会の人形遣い・春田さんより『長老越節義之誉』の制作経緯とあらすじが紹介された。本演目は、江戸時代に京丹波町に実在した藤田猪平とその妻・お紺の物語。『子別れの段』では、雪が降る中、二人の子を連れ長老ヶ岳を越えようと歩いていたお紺が、背負っていた子が息を引き取っていることを知り、子を泣く泣く村人に預ける場面がある。長年お紺の人形を遣ってきた春田さんは、この場面で思わず涙しそうになる時があると言い、人形の心と一体になる人形遣いの姿が伝わってきた。また、和知人形浄瑠璃会の太夫・尾池さんによると、太夫の語りをきっかけに人形が動き、三味線は太夫と息を合わせながら物語を豊かに演出するため、太夫の語りは人形浄瑠璃の要とのこと。だからこそ、誰にでも届く「大きな声で語ることが大事です」と参加者に伝えていた。
「まずは、まねてみよう」と、参加者は尾池さんが語る義太夫節の独特な抑揚や間に耳を澄ませ、ワークシートにうすく印字された『子別れの段』の語りの文字をなぞり書きしながら声に出してみた。一度に聞く・書く・声に出すのは難しそうであったが、参加者は様々な感覚を通して太夫の語りに触れることで、少しずつ人形浄瑠璃や『長老越節義之誉』の世界へと引き込まれていくようであった。


繰り返し語り、おおまかな内容を掴んできたところで、ユニークなワークが行われた。その内容は、『子別れの段』で特に観客の胸に迫る、お紺が命を落とした子と別れる場面の台詞「おさらばさらば」になぞらえ、参加者それぞれが「おさらば」したいエピソードをもとに物語をつくるというもの。物語を書くためのワークシートは穴埋め形式で取組みやすく、山成研究所のうーさんから、「おさらばさらばできるくらいの、ちょっとショックなできごとを」という声掛けに、参加者はすらすらと台詞や情景を書いていた。全員が書き終えると、太夫になりきって、一斉に自分の物語を義太夫節風に語った。それぞれのエピソードや、現代語を義太夫節に似せて語ることによる独特の味わいや面白さによって場が和み、参加者の緊張がほどけ、次第に声量も大きくなっていった。ワーク自体は個々の作業であったが、各自の日常を少し語り、皆で楽しい体験を共有できたことで各々の心が開いたようだ。参加者が自分の目線で対象を捉え、楽しむことを大切にする、山成研究所の工夫が感じられた。




ワークショップの終盤には和室に移動し、床本を置く見台(けんだい)を前に正座し、上演時の太夫の所作をまねながら、再び皆で『子別れの段』の語りに挑戦した。太夫の尾池さんが参加者に伝えたことは二つ。「大きな声」で「物語の情景をイメージして」語ること。そのアドバイスによって、参加者の声に奥行きが生まれていた。さらにここで和知人形浄瑠璃会・小林さんが演奏する三味線の音色が加わり、参加者は物語の臨場感や太夫・三味線奏者の息遣いを感じ取っていた。その後、参加者の語りを一人一節ずつリレー形式で録音し、10月25日に行われたパフォーマンス「まねっこ浄瑠璃大行列」(大行列レポートリンク貼付)のからくり屋台“まねっこ語り”の仕掛けの一つとして再生された。


最後に、各自のワークシートを糸で綴じて、オリジナルの床本が完成。持ち帰ったり、パフォーマンス(前述)の出演時に使用したりした。


本ワークショップでは、参加者の和知人形浄瑠璃への興味や好奇心を引き出す、三つのアプローチがあった。
一つめは、本プログラムのメイン手法である「まねる」こと。人は他者をまねる時、対象をよく観察したり聴いたりして感覚を研ぎ澄まし、実際に自分の身体を動かす。その行為は、主体性を育むとともに、新たな感覚で対象を捉えることができただろう。
二つめは、「つくる(手を動かす)」という行為。つくる過程では、完成品を見聞きしたり、手にしたりするだけでは認知できていなかった細部が見え、新たな気づきを与える。また、自らの手で生み出したモノ(今回は床本)には愛着が芽生え、なかなか日常的に接することができない太夫(語り)や和知人形浄瑠璃との距離が縮まったのではないだろうか。
三つめは、「自分に寄せてみる」こと。今回は、題材演目の一場面を自分に置き換えて想像を巡らせたことで、台詞などを情感豊かに物語る助けになったようだ。日頃から授業で和知人形浄瑠璃を学んでいる中学生が「普段と違った様子だったから(太夫・語りに)親しめた」、「新しい学びが増えた」と感想を述べていたように、これらの手法により、地域で受け継がれる伝統芸能を新鮮な視点で捉えることができたように思われる。
和知人形浄瑠璃の魅力に触れるためには、舞台鑑賞だけでなく、色々な“入口”がある。ワークショップを通じて、山成研究所が「あなたが面白そうと感じることを“入口”に、あなた自身の虫眼鏡(視点・探求心)を向けてみませんか?」と呼びかけているようであった。伝統芸能に限らず、何かについて深めてみようとするとき、「まねる・つくる・自分に寄せてみる」を活かせそうだ。

レポート一覧
・「まねっこ浄瑠璃」まねっこ三味線
・「まねっこ浄瑠璃」まねっこ人形
・「まねっこ浄瑠璃」まねっこ語り
・「まねっこ浄瑠璃」まねっこ大行列
(記事執筆:杉愛(京都府地域アートマネジャー・南丹地域担当))













