南丹地域|亀岡市
目次
京都府では、京都府の多様な地域性を活かして、文化芸術の力で地域を元気にするような活動であって、チャレンジ精神や創意工夫の見られるものを支援する、「文化力チャレンジ補助事業」を実施しています。 本事業では、京都府民が自らの住む地域の文化に誇りと愛着を持つこと、地域における文化芸術の担い手の裾野を広げていくことを目指しています。
「文化力レポート」では、文化力チャレンジ補助事業から、京都府域での文化芸術活動の動向や知見を京都府地域アートマネージャーなど、文化芸術の専門人材が取材した記事をお届けしています。
展覧会『作業する場がある』について、後編をお届けします。
▶前編レポートはこちら
展覧会『作業する場がある』で紹介されたHOZUBAG Mfg.と巡り堂の作業場とはどのような場所なのか――。
また、「作業する場がある」ことは地域社会にどのようなコトを生むのか――。
HOZUBAG Mfg.の工場と、巡り堂の活動拠点である「みずのきカフェ」を訪ねました。
■HOZUBAG Mfg.の作業場
HOZUBAG Mfg.の誕生は、環境に関する取組みを進めていた亀岡市から「かめおか霧の芸術祭」のアーティストたちに寄せられた依頼がきっかけでした。市が、エコバッグの使用を啓発するイベントの開催を依頼したところ、アーティストたちはイベントの提案にとどまらず、資源が亀岡で循環し持続的な取組みとなるよう、バッグ生産の事業化を見据えた計画を市に提案。その後、計画が採用され、HOZUBAGの拠点(工場)が整備されました。
では、何を素材にバッグを作るのか――。
アーティストたちが素材探しをしていたところ、同芸術祭の総合プロデューサーである松井利夫さんが、亀岡の空を飛んでいたパラグライダーに着目。それまでは保管・廃棄するしかなかったパラグライダーの生地がバッグの素材に選ばれました。

「工場(こうば)」と聞くと、様々な機械が素早い速さで次々に商品を生産している様子が想像されますが、HOZUBAG Mfg.の工場では音楽が流れる中、数名のスタッフが各々のスピードで丁寧に作業を進めていました。

HOZUBAG の制作は、まず、国内各地から届く、飛ぶ役目を終えたバラグライダーの翼の解体から始まります。長さ10m前後ある一つの機体の翼から2枚(以下写真では、紫と白の2枚)の生地を取り出すために、翼にたくさんある接合部分をハサミで切り離し、翼を支えていた直径数ミリの骨や細いコード、付属物を一つ一つ丁寧に取り外していきます。この一連の作業は一体につき2人がかりで2~3時間を要するそうです。一体から生産されるバッグは、XLサイズ(横76㎝×縦45㎝×マチ31㎝)のバッグで約20個。


解体後の生地は、洗浄、天日干しされ、スタッフの手で裁断、縫製されます。生地そのものが色もサイズも柄も多様なため、どの色の生地を使い、生地のどの部分を商品に活かすかなど、スタッフの創造性が商品に活きてきます。縫製してバッグの形になった商品は、検品を経て新たな持ち主の手に渡ります。
これらの一連の作業は分業となっており、一人一人のスタッフの丁寧な手仕事を経て商品が完成します。HOZUBAG Mfg.のスタッフの経歴は、アパレル経験者や初めて服飾に携わる人など様々。他の仕事の傍ら勤めるスタッフ、社会復帰して作業経験を重ねることで自信を取り戻しているスタッフ、文化的な創造の場に携わりたくて勤めるスタッフなど、仕事をする目的は異なるけれどもそれぞれが自己を活かし、HOZUBAGをつくる喜びや楽しみを得ているように感じられました。
工場長の武田さんによると、これまでの経験も含め全員が異なる個性を持っているからこそ、色々な気づきや意見を得られるそうです。また、作業場において心がけていることとして、「続けていくために収益を生むことは大事ですが、働く人たちが働きたいと思える仕事を続け、この仕事をやりたいと思える現場を残すことを大切にしている」と語ってくださいました。

亀岡市から嵯峨嵐山へ流れる保津川から名づけられたHOZUBAG。海から雲となって雨となり、やがて山や川を巡り海に戻る水の循環のように、空を飛んでいたパラグライダーがHOZUBAG Mfg.のスタッフの手仕事を経てバッグに生まれ変わり、新たな持ち主に再利用されるというモノの循環が、日々、生み出されています。そしてその作業場は、働く人の個性や感性、創造性が発揮され、働く人がモノを生み出す喜びや楽しさを得られる場所でした。

■巡り堂の作業場
画材循環プロジェクト「巡り堂」は、家財回収事業を行っている一般社団法人ALL JAPAN TRADINGからみずのき美術館へ寄せられた「回収した画材類の廃棄を減らせないか」という相談がきっかけでした。相談を受けた同館キュレーターの奥山さんや協力者の方々がアイディアを出し合い、回収された画材類をクリーニングし、新たな持ち主に届けるための仕組みと作業場がつくられ、プロジェクトが始動しました。このプロジェクトが「生きづらさを抱える人たちのケアになれば」という奥山さんの思いから、クリーニング作業は、障がいのある人や引きこもりを経験した人など社会的支援を必要とする人たちが行っています。

巡り堂では、作業のルールやノルマを設けていません。作業するメンバーは、作業拠点のみずのきカフェに来たら、ALL JAPAN TRADINGから届いた画材の中で各々気になったものを選び、クリーニング作業を始めます。奥山さんは、このプロジェクトの良さについて、「拭く」作業ができれば誰でもできる取り組みやすさ、作業効率や生産性を求めず本人主導で作業を進められる自由度を挙げます。
巡り堂の作業場は、作業経験を重ねながら各々が作業の工夫を発見していったり、あるメンバーが苦手なことは得意なメンバーがカバーしたりと、それぞれの個性が発揮される場になっているそうです。

(写真提供:みずのき美術館)


奥山さんは、巡り堂の作業場やメンバーにとっての居心地の良さは、「一人ではつくれない」と言います。作業自体は個人で行えるものですが、メンバー同士が他者を想像し補い合うことに喜びを見出したり、心穏やかに黙々と行う作業や他愛ない会話が、彼らの生きづらさを解きほぐしているのではと感じているそうです。
プロジェクトを開始してから3年。奥山さんは、メンバーの作業の日々を振り返り、「自宅から外出しづらいなど各々の事情を抱えながらも、巡り堂に通うために身支度をするなど、彼らの生活リズムの維持につながり、暮らしの励みになっているから通い続けているのでは」と感じていると言います。「日々の暮らしの中で、あるいは何年も経過して人生を振り返る中で、巡り堂やみずのき美術館の活動に関わったことが、メンバーにとって糧になってくれていたら。そして巡り堂が、いつでも戻って来られる場所でもありたい。」とその思いを語ってくださいました。

■作業場から地域社会へ広がるコト
HOZUBAG Mfg.は、今、亀岡市役所の新人職員研修の見学先の一つになっています。不要とされた資材に新たな価値を見出して商品を生み、資源循環を醸成しているHOZUBAG Mfg.のプロジェクトのように、発想の転換や価値の創造を行うアートの視点を行政に活かすことが期待されています。
また、巡り堂には、プロジェクトの趣旨に賛同した団体やアーティストから、ワークショップなどの創作や作品制作のための画材提供の協力依頼が寄せられ、巡り堂の画材を通じて地域社会に新たなつながりや創造が生み出されています。
展覧会『作業する場がある』が伝えた「作業する場」は、各々がその個性や創造性を活かし、作業を通じて心を満たしながら社会に関わる場であり、人と人、人とモノとの出会いを生む場でした。
■循環に加わる
各プロジェクトの商品や画材は、亀岡市内の各所で触れることができます。
HOZUBAGはKIRI CAFE<KYOTOHOOP記事>や亀岡駅にある「かめまるマート」に、巡り堂の画材は、亀岡市役所の地下の「開かれたアトリエ」<KYOTOHOOP記事>に設けられている「かめおか画材循環コーナー」で手にすることができます。HOZUBAGや巡り堂の画材に触れ、それぞれの循環に加わってみませんか。


(写真提供:みずのき美術館)
記事執筆:杉 愛(京都府地域アートマネージャー・南丹地域担当)
■開催情報
会 期|2024年11月8日(金)〜12月22日(日)
※開館 金・土・日・祝 10:00〜18:00
会 場|みずのき美術館
入場料|一般400円、高大生200円、中学生以下無料
障害のある方及びその付添人(原則1名)は無料
主 催|みずのき美術館
共 催|HOZUBAG Mfg.
協 力|株式会社HOZUBAG 、THEATRE PRODUCTS、
一般社団法人ALL JAPAN TRADING、学びの森、親谷茂
詳 細|https://www.mizunoki-museum.org/exhibition/hozubag-megurido/(外部リンク)
〇みずのき美術館HP
https://www.mizunoki-museum.org/(外部リンク)〇HOZUBAG Mfg.HP
HOZUBAG(外部リンク)













