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[文化力レポート]崇仁すくすくセンター(挿し木プロジェクト)

目次

京都府では、府内の多様な地域性を活かして、文化芸術の力で地域を元気にするような活動であって、チャレンジ精神や創意工夫のみられる取組を支援する「文化力チャレンジ補助事業」を実施しています。
「文化力レポート」では、京都府地域アートマネージャーなど文化芸術の専門人材が、採択事業の現場を取材し、レポートをお届けします。

今回は、崇仁すくすくセンター実行委員会による「崇仁すくすくセンター(挿し木プロジェクト)」と、東京藝術大学・安部良准教授が取り組む文化的処方の共同プロジェクトの一環として催されたトークイベント「アートと福祉をめぐる問いの時間-『文化的処方』ってなんだろう?-」の様子を紹介します。なお、本イベントは、同日に開催された「挿し木のみまわり会-京都市立芸大キャンパス内の雑草を学ぶ-」の関連イベントとして実施されました。

 

■トークイベント概要

タイトル|アートと福祉をめぐる問いの時間-「文化的処方」ってなんだろう?-
登壇者|安部良(建築家、Architects Atelier Ryo Abe代表、東京藝術大学・美術学部建築科准教授)、出口むつみ(社会福祉法人カトリック京都司教区カリタス会総合福祉施設のぞみの園総合施設長)
日時|2026年7月27日(月)18:00〜19:30
会場|CAFE アミー(京都市下京区)
主催|崇仁すくすくセンター実行委員会
共催|東京藝術大学 共生社会をつくるアートコミュニケーション共創拠点、崇仁デイサービスうるおい、京都市下京・東部地域包括支援センター

 

■[文化力レポート]
 崇仁すくすくセンター(挿し木プロジェクト)

1. 地域の記憶をつなぐ「崇仁すくすくセンター(挿し木プロジェクト)」
2. 福祉の現場から生まれた問い
3. 「文化的処方」をめぐって
4. 『文化的処方のはじめの一歩』から考えること

1. 地域の記憶をつなぐ「崇仁すくすくセンター(挿し木プロジェクト)」

令和8年度京都府文化力チャレンジ補助金採択事業のひとつ「崇仁すくすくセンター(挿し木プロジェクト)」は、崇仁すくすくセンター実行委員会が主催する通年事業である。新たなまちづくりが進み、京都市立芸術大学の移転など大きな変化を迎える崇仁地域において、かつて地域の小学校や市営住宅など、あちらこちらにあった樹木を挿し木として残し、新しいまちへと植え継ぐことで、土地の記憶や人のつながりを未来に継承していくことを目指している。2020年にスタートしたこのプロジェクトは、2030年にはすべての挿し木を地植えすることを目標に、活動が続けられてきた。実行委員長でアーティストの山本麻紀子氏を中心に、地域の高齢者や子どもたち、京都市立芸術大学の学生など、多様な人々が関わりながら進められることも、この活動の大きな特徴である。

クチナシの地植え会の様子、2024年10月25日  提供:崇仁すくすくセンター実行委員会

大きな作品シリーズ「挿し穂の横断幕」制作の様子  提供:崇仁すくすくセンター実行委員会

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2. 福祉の現場から生まれた問い

トークイベントの会場は、崇仁地区にある地域で親しまれる喫茶店「CAFE アミー」だ。登壇者は、崇仁すくすくセンター実行委員会メンバーでもある東京藝術大学・美術学部建築科准教授の安部良氏と、総合福祉施設のぞみの園総合施設長の出口むつみ氏である。トークは、出口氏が福祉の現場で感じている思いを起点に進められた。施設利用者との日々の関わりやコミュニケーションの中で見えてくる可能性、利用者に託した役割がもたらす効果、そしてアートが介在することの意義などについて、出口氏が現場で抱く迷い、あるいは希望に対し、安部氏が建築を通じた自身の経験のほか、アート活動の構造的な解説を交えて対話を重ねた。出口氏が実感を込めて語ったことの中で印象的だったのは、「高齢者福祉においてその人の人生を省いてしまっては、福祉は成り立たない。その人が歩んできた人生に共感し、共有してこそ、今、その人に向き合うことができる」ということだった。施設に招いたアーティスト・山本麻紀子氏との面会や対話が有効に働いた事例として、普段と異なるアーティストの視点(あるいは多視点)や関係性が持ち込まれることで、利用者の新たな一面が引き出されたこと、また、共同作業において完成を目的とせず過程を重んじることで義務的な取り組みにはない効果を見出したことが紹介された。これらは、福祉の支援とは異なる立場でアーティストが関わった事例といえるが、出口氏はこの実践がすなわち「文化的処方」なのかという問いを投げかけた。

トークイベントの様子、2026年7月27日  提供:崇仁すくすくセンター実行委員会

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3. 「文化的処方」をめぐって

トークの冒頭、安部氏が「東京藝術大学 共生社会をつくるアートコミュニケーション共創拠点」(通称:ART共創拠点)での活動を踏まえて、「社会的処方」と「文化的処方」について解説した。「社会的処方」は、孤立や生きづらさを含む社会的要因に対して主に医療・福祉現場からの「処方」を指す。一方、「文化的処方」は、医療・福祉に限らず、地域コミュニティや文化施設等が主体となって進められる取り組みで、アート作品やアーティスト、あるいは文化芸術活動との関わりを通して、人のウェルビーイングや、地域あるいは社会とのつながりを支える実践であるという。その実践において多視点を持つことや言葉に出すことによる効果のほか、「自己超越感覚」、「直線的時間からの解放」といった効果についても説明された。また、「孤立(社会的分断)」ではなく、安心して「孤独」でいられる社会や環境であるべきことにも言及があった。多様な文化芸術活動がある中で、「文化的処方」を単一的に定義することや答え合わせが重要なのではなく、自身の実践を振り返りながら考え続けること、あるいはそのために意識や姿勢を向けること、それこそが「文化的処方」の入口といえるのではないか。

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4. 『文化的処方のはじめの一歩』から考えること

当日の配付資料の一つに、ART共創拠点発行の冊子『文化的処方のはじめの一歩』(2025年)があった。冊子の表紙には「暮らしにアートを処方する」、表紙をめくると「あなたの『好き』が、誰かの『道しるべ』になる」、「自分の内側とのつながりを育むこと」といった言葉が記されている。アートに関する解釈は、個人の表現から地域活動、制度や政策に及んで様々で、一括りには言い表せない。しかし、この冊子が冒頭で示すように、まずは個々人があって、「個」の感覚から“アート”が生まれ、始まることには大いに共感する。「好き」「面白い」「きれい」「心地よい」、あるいは「苦手」「嫌い」「わからない」という感覚も含め、それは他者から与えられるものではなく、個々人の内側から発生するものであり、外から制約を受けるものではない。また、その感覚を言葉にして初めて、他者と共有することができる。共感もあれば反感や無関心に出会うこともあるだろう。しかし、その交感によって私たちは自分自身を知り、他者を知り、異なる価値観について考え、自身を振り返る機会を得る。

冊子『文化的処方のはじめの一歩』  提供:東京藝術大学 共生社会をつくるアートコミュニケーション共創拠点

今回のトークは福祉の現場を通じて考えるアートや「文化的処方」がテーマであった。「文化的処方」は特定の手法や制度で括られるものではなく、そもそも個の尊重を基盤とし、他者との関わりの中で新たな気づきや自己理解を育む営みであるとすれば、今回トークで展開された問いや対話の時間も文化的処方の実践だったといえよう。また、個の尊重は福祉とアートに共通する重要な視点でもある。だからこそ福祉の現場において文化的処方が効果を発揮するのではないだろうか。当然、今回トークで取り上げたテーマもその場で完結するものではない。参加者がそれぞれに持ち帰り、それぞれの実践の中で問いを重ねていくことで、それぞれの「文化的処方」が育まれていくのだろう。土地の記憶を未来へつなぐ「崇仁すくすくセンター(挿し木プロジェクト)」の活動とともに、その問いがどのように育ち、新たな出会いや対話を生み出していくのか、今後の展開にも注目したい。

記事執筆:髙見澤こずえ(京都府文化芸術課・専門人材)


「文化的処方」についてより詳しく知るために、以下を参照されたい。

ART共創拠点が掲げる「文化的処方」について

文化的処方とは、医療や福祉と文化の領域が連携し、健康を身体だけに還元せず、精神的・社会的・文化的な充足を含むものとして捉え直す実践。日常のなかにある「楽しさ」や「安らぎ」、「意味を感じること」や「誰かとつながること」といった文化的経験を通して、人の回復やウェルビーイング、社会とのつながりを支えていこうとする仕組み。

 

参考

・東京藝術大学「共生社会をつくるアートコミュニケーション共創拠点」ウェブサイト
 https://kyoso.geidai.ac.jp/
・冊子『文化的処方のはじめの一歩』
 https://kyoso.geidai.ac.jp/newsDetail.html?id=UeMfwCnm

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