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[事業レポート]写真展「大江の物語-変化へんげ する鬼たち-」

中丹地域|福知山市

写真展「大江の物語-変化へんげ する鬼たち-」では、2025年8、9月に実施した写真ワークショップの参加者が撮影した写真作品を、大江ゆかりの大雲記念館(旧平野家住宅)や京都丹後鉄道大江駅、福知山城を望むゆらのガーデンなど、福知山市内の4会場で展示しました。
写真展の様子や写真表現について、大江在住の美術家であり、本プログラムに地域サポーターとして参加された新井厚子さんに、写真ワークショップに引き続きレポートをまとめていただきました。

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写真展「大江の物語 −変化へんげする鬼たち−」

開催概要

会期|2025年11月7日(金)~ 11月30日(日)
出品者・出品数|写真ワークショップ参加者50名・115点
写真セレクション|吉田亮人(写真家)
会場|大雲記念館(旧平野家住宅)、京都丹後鉄道大江駅、
   ゆらのガーデン
合同展示|「日本鬼師の会」2025年10月28日(火)~ 11月9日(日)
      市民交流プラザふくちやま
     (福知山市立図書館 中央館 2階サービスカウンター前)
観覧|無料・申込不要
撮影地|日本の鬼の交流博物館、元伊勢内宮皇大神社、
    宮津街道(新童子橋周辺)、京都丹後鉄道大江駅周辺

トークイベント

日 時|2025年11月29日(土) 13:30~15:00
登壇者|吉田亮人(写真家)、新井厚子(美術家)、
    神社孝徳(福知山市大江支所)
場所|大雲記念館(旧平野家住宅)
参加者|無料・申込制

 

秋になり少しずつ山が色づき始めた頃、夏に行われた写真ワークショップの展覧会が始まった。大江町の大雲記念館と、京都丹後鉄道大江駅、福知山城の隣のゆらのガーデンといった福知山市各所で行われ、それぞれの空間の特性を活かした写真展となった。

展示作品は、ワークショップで歩いた何気ない風景の一部を撮影したものが多いが、いつもと異なる角度でカメラを向け、距離感を工夫し、光に目を凝らして、身近なものや道端の見慣れたものの美しさを捉えている。そんな大江の風景を切り取った写真が展示空間に開いた窓のように見えた。

大雲記念館(旧平野家住宅)、正面入口

大雲記念館(旧平野家住宅) 1階和室、写真展示の様子

大雲記念館(旧平野家住宅)1階土間、写真展示の様子

 

メイン会場となった大雲記念館(旧平野家住宅)では、広い和室や土間で、畳や襖を巧みに用いて写真が展示されていた。襖型に落とし込んで設置されたパネルには、木の枝が何かの角のように見える作品が配され、大江の繊細な手漉き和紙が表面にあしらわれた大きな展示台には水のイメージの写真、ほの暗い茶室にはぼんやりと照明の灯りが映る写真が展示され、場の持つ空気と作品が重なり合い新たな言葉として語りかけてくるようだ。


大江の手漉き和紙「丹後二俣紙」(京都府指定無形文化財)をあしらった展示台に写真作品が並ぶ

大雲記念館(旧平野家住宅)2階茶室、写真展示の様子

 

大雲記念館は京都府指定有形文化財に指定された建物で、写真展を見に来て、建物とこの地域の歴史に関心を持った人も多かった。平野家に伝わる古文書や民具などの常設の民俗資料を熱心に見学する姿も見受けられ、この写真展が地域の文化遺産を知るきっかけにもなった。
鬼伝説のある大江山近辺と大雲記念館のある由良川の水運で発達した川沿いの地域は山地と水域でそれぞれに異なった歴史の流れをもつが、その違いも含めてもう一つの大江のあゆみを感じることができた。

大雲記念館(旧平野家住宅) 2階和室、写真展示の様子

 

次に大江駅の会場は、電車のホームがよく見える2階のスペースが使われた。窓からは電車が到着して人が乗り降りする様子が見える。駅を背景に作品は展示され、窓に貼られた半透明の写真はその向こうの風景と重なる。列車、人、田園風景、そして写真。さまざまなストーリーを想像させる空間となっていた。

京都丹後鉄道 大江駅 2階展示スペース、写真展示の様子

京都丹後鉄道 大江駅 2階展示スペースの窓、写真展示の様子

 

福知山の市街地では公園の中に店舗が点在する商業施設、ゆらのガーデンで屋外展示がされた。作品はごつごつした石を土台に設置されていた。周辺の住宅地や店舗、見上げると福知山城が目に入る多少人工的な景観の中、強い自然のエレメントが写真の形を借りて石からすくっと立ち上がったように見える。周辺の対照的な風景も作品に取り込まれたように視界に入ってくる。
このように、それぞれの場が持っている歴史や物語と、そこに入れ込まれ展示された写真が、もう一つの層で、新たな物語を語り出した。

ゆらのガーデン、写真展示の様子

 

写真展は多くの出会いも生んだ。建物や作品について来場者と言葉を交わしたり、地域の知人と出会ったり、展示をきっかけに会話がはじまる。ある日は大雲記念館とゆかりのある方が来館され昔の様子などを聞く機会もあった。
会期終盤には大雲記念館でトークイベントが行われた。写真ワークショップの講師、吉田氏が撮影時の様子や作品について語り、また来場したワークショップ参加者と撮影について振り返りながらトークは続いた。写真が展示され、見る人がいて、その反応を共有することでまた作品は広がりを見せてゆく。

大雲記念館(旧平野家住宅)トークイベントの様子

 

この地域でこうした空間を意識し、個々の作品展示だけにとどまらない展示空間と作品の調和をみるような展覧会が開かれることは多くない。アートに触れる機会が多い都市部とは異なり、地方では人口もアートへの距離感も変わり、来場者数も多くは望めない。しかし、独特の文化基盤が色濃く残る地域での芸術活動の実践は、他にはない魅力と価値がある。目を凝らしてみると、耳を澄ましてみると創作の題材はいたるところに転がっている。何を感じ、何を拾い、どう磨くか、あるいはあえて磨かないか、その選択にものづくりがある。

写真作品について語らう吉田氏と写真ワークショップ参加者

 

その土地の中で何を魅力的なものとして捉えるかは、それぞれの文化的背景や価値観によって異なる。また、その状況の中にすっぽり入り込んでいると日常の中で光るものに気が付かないことがある。アーティストが俯瞰的にものを見て、また別の視点によるキュレーションで、見慣れた風景を捉え直して表現することで、身近にある美しさに気づくことがある。たとえば、畳の部屋に水の流れを撮影した写真が置いてある。部屋を仕切る襖に三角に切り取られたような空と黒い山が現れる。それらはいつもの風景を、もう一度じっくりと観るきっかけとなる。その面白さを今回の展示で改めて感じた。

鬼の気配を由良川の眺めのある大きなお屋敷で感じ、駅を背景としたドラマを想像し、お城の見える町の風景に残る歴史を思い描く。それぞれの場面の余白にあるものを考えながら、変化(へんげ)するものに想いを寄せる。

(記事作成日|2025年12月20日)

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記事執筆

新井 厚子(あらい あつこ)

美術家。福知山市大江町出身・在住。スペイン・バルセロナで立体、空間芸術を学び欧米や日本各地で地域性のあるテーマのもと参加型アートプロジェクトを多く制作。2015年頃に制作拠点を地元に移し、アートの視点から地域の文化を掘り起こすプロジェクトを継続的に行っている。福知山でアートスペース「シンマチサイト」を運営し、大江の文化イベント企画にも関わっている。 

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