中丹地域|舞鶴市
目次
歴史文化遺産に恵まれた舞鶴市特有のユニークな資源を、アートを介して地域の内外に深く広く普及していくことを目指して実施した、地域プログラム(中丹)『「地域とアートが呼応する」5年後のみんなに届ける人材育成講座』。本プログラムはどのような取組となったのか。プログラム統括・朴鈴子さんからの所感をお届けします。
一般参加者を迎えた2回の講座について
[第1回]アートって何?「アート」を再定義する
[第2回(前半)]地域の何が魅力になりうるのか?新しい「目」を着る対象 | 京都府立東舞鶴高等学校3年生/
一般参加者
開催日・参加者数 |
[第1回]2024年9月19日(木)・30名
[第2回(前半)]2024年9月26日(木)・29名
時間 | [第1回]9:50~11:40
[第2回(前半)]9:50~10:40
会場 | 京都府立東舞鶴高等学校・多目的室
現代社会において、とりわけテレビやSNSで「アート」という言葉がチープに消費される傾向がある中、「アート」を再定義することはとても重要なステップだった。わたしも、未だに簡潔にまとめられるほどの理解度に達していないが、少なくともアートは絵画や彫刻に限ったものではないし美しいとは限らない。表現の自由の観点から、人は様々な事象や感情を多様な形態で表現してきたしそれらを受容してきた。テクノロジーの発展も含めると今後さらに多様化するだろうと思う。
「アート」を再定義すると題した講座では、アーティスト・山本麻紀子さんが自身のこれまでの作品を中心に、題材となる素材との出会いから表現媒体をどう選びつくり上げていったか、実際にあった出来事と共に紹介をした。ロンドンでのプロジェクト『落とし物管理所』は、最終的に映像や(落とし物が)資料となって美術館で展示される作品となるが、題材や表現の可能性が無限であり、作品に鑑賞者を惹きつける「物語」の存在を知る重要な講座だった。
また、地域をアートで繋げるためのとっかかりとなる「地域の何をどう捉えるのか」という課題に対して、京都芸術大学専任講師の石川琢也さんが講座を担った。「デザイン」という言葉が溢れている現代社会の中で、地域をデザインすることに関しては、便利さや見た目の洗練を追求するよりも、コミュニティが持続的に取り組めることに加え、汎用性の高さが重要であるとした。オーバーツーリズムが問題視される京都では、京都府内に観光拠点が分散的に存在することが大きな手助けとなるはずだが、舞鶴市にとっても地域活性や問題解決のための緩やかなデザインの導入によって、新しい未来が描ける人材が生まれることは意義深いことだったのではないかと思う。
「地域をアートで繋げる」、2つのキーワードを深掘りすることから始まった講座は、参加した東舞鶴高校の生徒によって成果物と発展したが、一般の方々、とりわけ舞鶴在住の方々とこの時間を共有できたことで、まだ見ぬ未来に期待を寄せたいと思う。
一般参加者の声
▶ 山本さんのお話を聞いて頭がやわらかくなりました。(舞鶴市・40代)
▶ 学生さんとアートについて話せて、たいへん貴重な時間でした。山本さん、朴さんのお話もおもしろかったです!(舞鶴市・40代)
▶ いろんな見方が、可能性があることに気づいた。(福知山市・60代)
▶ 個人でできることにフォーカスをあてていて希望がわいた。(舞鶴市・20代)
▶ まちに働きかけるヒントをいただきました。(福知山市・60代)
高校生の取組について
[第2回(後半)]冊子で何を表現できる?
[第3回]まち歩きと取材
[第4回]表現の構築とブラッシュアップ
[第5回]校正とレビュー対象 | 京都府立東舞鶴高等学校3年生
開催日・参加者数 |
[第2回(後半)]2024年9月26日(木)・24名
[第3回] 2024年10月10日(木)・24名
[第4回] 2024年10月24日(木)・24名
[第5回] 2024年11月14日(木)・23名
時間 | 各日9:50~11:40 ※[第2回(後半)]のみ10: 50~11: 40
会場 |[第3回]舞鶴赤れんがパーク/舞鶴引揚記念館/金剛院/松尾寺
[第4回・第5回]京都府立東舞鶴高等学校・美術室
わたしが美術館勤務だった頃は、10代の若い世代の暮らしや居所に関心があり、彼らを対象に様々な企画を実施した。しかし近年はほとんど関わりがなかったので、今回は緊張と高揚感が入り混じる気持ちで初日を迎えた。正直なところ、壇上から見た彼らの姿からは取組への意欲は希薄に感じられた。
しかし一人一人と対面で話すと、強い思いや深い思考を受け取れ、講座毎に発展する彼らのアイデアやこだわりが楽しみになった。
舞鶴の高校生の多くが、卒業後、市外への進学や就職で舞鶴からいなくなると聞いた。講座の対象者は高校3年生、まさに4月には舞鶴から飛び立つ。そんな彼らが舞鶴を見つめ直し、自分たちの文脈で「舞鶴」を公に伝えることによって、舞鶴への愛着、ひいては舞鶴に戻ってくることに繋がるのではないかと思った。そんな未来のために、地域の魅力を発掘する審美眼を持ち、多様な文脈で発信できる人材を育成することには、未知数の可能性があると思う。このような人材育成事業は即効性に欠けるかもしれないが、受講した方々の体内でじりじりと醸成されていくことに期待したい。
成果物『よりみちまいづる』と高校生の声
成果物『よりみちまいづる』と高校生たちの声は、以下の記事まとめています。
プログラム統括プロフィール
■朴鈴子|ぱく りょんじゃ
米国にて博物館教育学修士課程修了後、2010年に京都国立近代美術館の教育普及担当に着任。学校教育における鑑賞学習の支援や展覧会に合わせたワークショップの企画などをおこなうほか、世代間交流や教科横断学習といった、多様な文脈で美術館と関わることができるプラットフォームの形成を模索。2015年より山口情報芸術センター[YCAM]のエデュケーターに着任。地元の学校との連携事業を中心に、パブリック・プログラムの企画制作など教育普及事業全般を担当。2019年より独立し、2021年に夫と共に株式会社Office PARKを設立。スポーツやアートに関わる多様なプロジェクトの企画制作、運営までおこなっている。
令和6年度京都府地域プログラム(中丹)
「地域とアートが呼応する」5年後のみんなに届ける人材育成講座
期間 | 2024年9月19日(木)~11月14日(木) 全5日
時間 | 各日9:50~11:40
会場 | 京都府立東舞鶴高等学校/舞鶴市内
参加 | 無料・申込制(一般公開のみ)
参加者 | 京都府立東舞鶴高等学校3年生24名(未来探究コース「クリエーション芸術」選択者)/ 一般参加者12名
講師・アーティスト|朴鈴子/山本麻紀子/石川琢也/金田研人
主催 | 京都:Re-Search実行委員会(京都府、舞鶴市ほか)
協力 | 舞鶴赤れんがパーク/舞鶴引揚記念館/金剛院/松尾寺
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