中丹地域|福知山市
本記事は、2019年12月21日(土)に行われた、地域プログラム『楽譜のない音楽会 in 福知山』をレポートした、WEBサイト【京都府地域文化創造促進事業】のアーカイブ記事です。
【楽譜のない音楽会 in 福知山】概要
スペイン人アーティスト、アルナウ・ミラと参加者でつくる1日限りのオーケストラ。ハンドサイン(ジェスチャー)による指揮で音楽、ダンス、ライブペインテイングなどを即興で構成する実験ワークショップと公開演奏会。
日時|2019年12月21日(土)10時-17時
場所|シンマチサイト(京都府福知山市下新3)
主催|京都府、シンマチサイト実行委員会
参加者とともにつくる1日限りのワークショップ
2019年の年末、京都の福知山市。ほとんどのお店がシャッターを閉ざしている商店街の一角に、シンマチサイトはあります。そこで、スペインから音楽家であり、芸術家のアルナウ・ミラ氏を招いて1日限りのワークショップと演奏会が開催されました。
会場には、アルナウさんと事前公募で集められたを15人程度の参加者。参加者の年代はこどもから60代まで幅広く、それぞれ、ピアノ、ハーモニカ、ウクレレ、太鼓、笛やバケツなど自分たちが演奏する楽器をもってきていました。楽器演奏だけでなく、ある参加者はダンサーとして、アーティストとして参加していました。多くの人が初めてこの場所を訪れ、そしてほとんどの人が別の参加者お互いのことを全く知らない状況の中、主催者によるアルナウ氏の紹介、参加者それぞれの自己紹介と楽器やダンス・演技、ドローイングなど演目の確認があり、即興でオーケストラをつくるワークショップは始まりました。
アルナウさんによるサウンドペインティング
アルナウさんと参加者による即興オーケストラには楽譜はなく、演奏方法や演目の制作は全て、アルナウさんが指揮者となり、アルナウさんが出すハンドサインによって誰が、なにを、どのように、いつ、行うのかが伝えられ、それに演者が反応するかたちでつくられていきます。
ハンドサインにはさまざまなものがあり、例えば、アルナウさんが片足を一歩、前にだし、手を前に出したら音を出す。出していた足を元の位置に戻したら音を止める。腕を円の形したら全員で、ある演者を指さしたらその人だけが音をだす。手で胸を叩いたら、打楽器のみ。または、ダンサーだけへの指示。そのほかにも両手で糸をつまんで横に広げるよう開いたらに長い音(一定の動き)を出す、手をぱっと瞬くように広げたら短い音(短いアクション)を出す。そのほかにも、テンポ、音量、繰り返しの指示、強弱、またはソロ、あるグループだけ、または音を出さない。また楽器への指示だけでなく、立つ。座る。声をだす。歩き回るなど動きへのサインもあり。即興で出されるサインは組み合わせによって100種以上におよびます。
そのひとつひとつのサインを覚えていく、そのサインに合わせて演奏・アクションをやってみることから、ワークショップは進んでいきました。ただ、やはり、即興での演奏・演技、慣れないことへのとまどい。またハンドサインの多さ、出される指示への対応だけで四苦八苦しているように感じられました。10時過ぎからはじまったワークショップは、サインを覚え、サインにあわせるだけ、参加者がなんとか一通りのハンドサインへ対応することができたように感じられたてきたころには、すでにお昼を過ぎていました。
即興の楽しさと難しさ
アルナウさんを含めて、参加者とともに場の全員が、全員の動きや出す音それらを見て、聞いて、感じて、その時にしかない音と空間をつくっていく。そのためには、常にアルナウさんの指示に、また他の参加者の動きに、場の空気に注意をむけている必要があり、集中力と応用力が試されます。指示にないこと、音がでてしまったり、とまどってしまって音が動きがだせなかったり、参加者からは失敗にたいしての恐れと、慣れない即興演奏への緊張がただよいだしたとき、アルナウさんから楽しむ方法として一言ありました。「即興には失敗はない。失敗したとしても自信をやりつづけること。そこからまた別の可能性が生まれることある」。この言葉をきっかけに、まだ緊張していた参加者も、即興でその場をつくりあげていくこと、表現をつくることを楽しむ雰囲気がでてきました。
少しずつ増えるハンドサインによる指示、また参加者同士の掛け合い、それぞれがもつ個性と共同によるハーモニー。時間が進むにつれて、場の空気が音と動き、声、さまざまなもので満たされていくようでした。
公開演奏会とその後
10時からはじまったワークショップも、16時まで。およそ6時間ぶっとおしでハンドサインを覚えるところから、音や動きをあわせ、即興で空間をつくっていくことまで、1日限りのワークショップは一旦、終了となりました。この後、この1日、参加者全員の成果発表としての公開演奏会が始まります。お客さんがだんだんと入場し、会場はうまっていきます。日がだんだんと暮れていくなか、なにがはじまるか、どのような演奏・演目になるのか、観客も、アルナウさんも、演者もまだわからない、即興での1時間の公演がはじまりました。
アルナウさんのハンドサインによって踊るように会場入りする参加者、その後の動きのみのパフォーマンス、楽器をつかったソロ演奏、共鳴、協働、演目、静かなひとつの音とその連続、全員参加の動きと音の騒乱、そして終了と退場。すべての即興は、今日1日のなかで、または過去に今まで、どこの、誰もみたこともない聞いたこともない、この場、このとき、この場所にあつまった人だけでなされたものでした。
演奏会の終了後、1日限りのオーケストラをつくり、演奏をおえた参加者はまだ興奮しながら、即興の楽しさ、同じ空間を共有したひとたちとひとつのものを作り上げることの楽しさを語ってくれました。そこには、即興というかたちを通したアーティストと参加者による協働の在り方がみえました。
(記事執筆:朝重龍太(京都府地域アートマネージャー・中丹地域担当))